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桜花賞回顧 2020.4.12

予想が決まらない。
原因は雨。

無観客の阪神競馬場に響くG1のファンファーレ。
拍手も手拍子もなく、もちろん歓声もない。
午前から降りそそぐ雨の勢いは止むことなく、静かに咲き誇る桜も濡れて、馬場は緩む一方。出走馬がお客さんのいないパドックを周回する。
2020年の3歳牝馬のクラシック桜花賞は無観客と大雨の重馬場という、ハレの舞台とは言いづらい格好となった。
しかし、テレビ中継の向こう側では、このレースの成り行きを楽しみに見守るファンは多かったのではないだろうか。たくさんのイベントやライブ、スポーツが中止となり、娯楽は限られる。たくさんの困難を抱えながらも、競馬は開催され、桜花賞というクラシックレースのG1のファンファーレが鳴り響くのだ。スマホを通じて買った馬券を抱えても、抱えてなくても、このレースの結末を見届けたいものだ。

道悪馬場を誰がこなすのか

例年とは異なる、この舞台に駒を進めたのは18頭。
定石ともいえる前哨戦から挑んできたもの、年末年始で結果を出し、直行してきたもの、と勢力は大きく分かれた。
その中でも、人気を分けたのは2頭。
まずは2歳女王、レシステンシア。
2歳女王を決める阪神JFで、当時破格の評判だったリアアメリアを破って、戴冠した。3歳緒戦は前哨戦チューリップ賞、阪神JFでは3着に退けたマルターズディオサに雪辱され、3着。前哨戦ならではの敗北として、満を辞して挑む本番。ハイラップを刻んで逃げるとしたら、同型馬がいるのがネック。また、過度な道悪は経験したことはないが、道悪が得意なダイワメジャー産駒だからそれほど心配はないといえよう。前を行く、展開面がやはり気がかりだが、鞍上には桜花賞男武豊騎手を迎えて闘う姿勢は抜かりない。

世間的に対抗評価を得たのは、デアリングタクト。
デビュー戦を快勝し、1戦1勝で挑んだリステッド競走エルフィンステークス。これを後方から上がり最速で4馬身ちぎって、桜の主役に躍りでた。このレースでは上がり3F34.0、次に速かった2着ライティアは34.9であることを考えてもいかに破格の末脚かがわかる。ただ、2戦しか経験していないキャリアの浅さに桜の大舞台の重圧がどうか。また、例の如く道悪適性や坂のある直線コースは未知数だ。鞍上には松山騎手、前日の阪神牝馬ステークスを制し、今年すでに重賞5勝。その勢いを持ち込めるか。

前哨戦組からはチューリップ賞からは覇者マルターズディオサ、2着クラヴァシュドールと7着スマイルカナ。マルターズディオサとクラヴァシュドールは阪神JFでレシステンシアと着順を分け合い、よきライバルでチューリップ賞でもこの3頭の着順が入れ替わっただけだ。今回もそうならないとは限らない、鍵を握るのがこの時の7着スマイルカナだ。年明けのファンタジーステークスを逃げ切り、桜花賞の舞台で逃げ宣言をしている。同型馬のレシステンシアの動き次第ではレースが大きく変わる。
クイーンカップからは1着ミヤマザクラ、2着マジックキャッスルが名を連ね、支持を得ていた。が、反対にフィリーズレビュー組のエーポス、ヤマカツマーメイドやアネモネステークスのインターミッション、フィオリキアリは二桁人気に甘んじる下馬評に。

前哨戦以外では、シンザン記念を牡馬相手に勝ったサンクテュエール。
阪神JFでは最後方から追い込むも届かなかったリアアメリアが桜花賞直行で雪辱に燃える。
切れ味ある両馬ともに課題は緩い馬場、前を行くレシステンシアを捕まえられるかが注目だ。

発走時刻となっても、上空はどんよりしており、雨は止まない。道悪馬場は波乱を演出するのか…はたまた思いもしないドラマを描くのか、馬券の代わりにスマホを握りしめ、テレビの前にかじりつくファンもいたことだろう。

道悪馬場を誰がこなすのか、フジテレビの中継からは元騎手である解説の細江さんが、デアリングタクトがもしかすると馬場をしっかり捉えて走れているかもしれないとつぶやく。細江さんのパドックでの指摘などはよく当たることで好評だ。

泥だらけの勝負服が先頭でゴールを駆け抜ける〜レース回顧

レースは雨の中でも揃ったスタートを決め、無観客のクラシックG1がついに始まった。
スタート後、50mも走れば前に行く、手綱を引く騎手と一気に分かれる。
ぐいぐいと前に行くのは最内枠の①ナイントゥファイブと逃げ宣言の③スマイルカナ。
1馬身離れて続いたのは、④サンクテュエールと⑤マルターズディオサの有力2頭。
⑰レシステンシアは大外の枠順が堪え、先頭の馬群にとりついたのは12と書かれたハロン棒を過ぎたあたりだ。
中間馬群はぎゅっと塊りとなって、身動きが取りにくい。⑪クラヴァシュドールはその馬群の中におり、対照的に⑨デアリングタクトは馬群からワンテンポ置いた後方に待機していた。
隊列は徐々に伸びて、一時は20馬身ほどになったが、残り800mから動きだす。3コーナーには馬群の塊りが前の4頭に飲み込もう進出開始だ。
先頭は黒い帽子③スマイルカナ、ピンクの帽子⑰レシステンシアが勢いそのままに4コーナーを周る。
すぐ後ろにヤマカツマーメイドとマルターズディオサ。
後方から手ごたえ十分で大外をまくってくるのはデアリングタクト。先頭とはまだまだ差がある。
4コーナーから直線へ。スマイルカナとレシステンシアが後続を突き放す。その差は2馬身から3馬身。この前を行く2頭のマッチレースとなるのか。
馬群から抜け出てくるのは、やはり前にポジションをとったマルターズディアサとサンクテュエール、しかし、じわりじわり進む様子で、先頭の2頭に襲い掛かる気配は薄い。内からは馬群を捌いてクラヴァシュドールの勢いがよく、3番手争いの一角に。

しかし、外から一気に突っ込んでくる馬がいた。他の馬とは勢いがまるで違う。

デアリングタクトだ。

一頭だけ次元の違う末脚で確実に着順をあげ、残り200mで4番手から3番手。クラヴァシュドールよりも明らかに勢いのある末脚であっという間に先頭の2頭を視野に入れる。
先頭争いは熾烈だ。
スマイルカナは粘り虚しく、レシステンシアの地力についていけず、半馬身遅れる。
束の間、外からデアリングタクトがレシステンシアに襲い掛かり、2馬身、1馬身、半馬身、そしてとうとうゴール前でもデアリングタクトの勢いは止まらない。一馬身差をつけて1着でゴール板を駆け抜けた。
直線だけでほとんどの馬をごぼう抜きだ。鞍上の松山騎手の勝負服は泥だらけ。ゴール後、左手を大きく振りかざして気合の入ったガッツポーズ。
松山騎手はアルアインの皐月賞以来のG1勝利だ。
派手な追い込みが決まり、気持ちもこもったことだろう。
2着にレシステンシア、3着にはスマイルカナが粘っていた。

劇的な勝利の裏に

雨が降りしきる無観客でのクラシック第一弾桜花賞は、緩んだ馬場をものともせず、後方一気でデアリングタクトが優勝した。
今回も他馬の追随を許さない上がり36.6。このレースでは37〜38秒が大体を占める中、重馬場を物ともせず、まさに異次元の脚が遺憾なく発揮された。

デアリングタクトは父エピファネイア、母デアリングバード(母の父キングカメハメハ)。父の母シーザリオ、母の母デアリングハートは2005年の桜花賞の2着、3着であり、結果としては縁のある血統だったわけだ。


松山騎手はウイニングランの時に一本指をかざした。
インタビューで三冠を意識したのかと問われ、言葉に詰まりながら、1着を、イチバンになったことを表現したようなことを言った。
二ヶ月後のオークスで、その指が二本になる期待をしたい。
その時には晴れでも雨でも、予想に迷わず、本命をうちにいきたいものだ。

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