だってワルツが聞こえないから

 しかたないもの、若かったから。肩に降りかかる歳月の羽根の重さなんて、気にかける暇もなかったから。誰が悪いわけじゃない。みんな失敗だったってだけ。孤独が好きなわけでもないし、賑やかな夜の中で踊りたいわけでもない。自分で自分がわからなかった。靄めいて幽霊みたいだった。港から出て行く船を並んで見た。夕暮れが僕たちを包み込んで切り裂いて、粉々にしてしまったあとで、恋とはなんだと考えた。考えていたら夜がきた。
 行き過ぎる人波の中で、僕は壊れたロードショーを観ているみたいだった。君はいつまでも動かないまま、遠ざかってゆくでもなく、近づいてくるでもなく、僕が勝手に、僕が、そう、遠い汽笛に意識をとられて、なにもかも見失ってしまっただけなのだ。
 孤独というBarで思い出というカクテルを飲んでいる。甘ったるくて飲めたものじゃない。そのくせ後には執拗な苦味が残る。マスターはラジオの音をしぼった。
 しかたないもの、青春だから。行き先もわからないトンネルの中を走り続ける日々だから。僕を取り囲む迷路のような夢の中で、何度も何度も朝を迎えて、汗にしめったシーツがまとわりついて、ああ、いつか旅した名も知らぬ町の路地で、僕は何を忘れてきたのか。
 

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