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みずたまりに青い空【詩物語】


915文字



六月の青空が流した涙でぼくは生まれた
あついアスファルトのくぼみに生きてる
ぼくはみずたまり


ひとはぼくをよけて歩く
雨上がりの午後の街は夏のにおい
そろそろ暑くなるころ
ネコさんをそっと見送り
のどのかわいたスズメさんをむかえる


忙しそうに歩くひとたち
たくさん行ったり来たり
誰にも気にもされずに
踏まないようによけられて終わるだけ

くつをぬらさないように気をつけてね




ときに青いクルマが勢いよくバシャリ
ぼくをふんで走り去ってゆくけど
そのたびにぼくのからだはすりへって小さくなった


青空の涙でできたぼくは
スピードを出すクルマがこわい
ふまれてしまうと
いつか小さく小さくなっていって
ここにはいられなくなると知っているから



ひからびていくんだね
そのときまで
ここで青空を見上げているんだ



遊んでくれた幼いきみへ
きみはみんなのたからもの
長ぐつでばしゃばしゃとママと手をつないで
楽しくお歌もきかせてくれたよね
だんだんぼくがへっていくけども
とても楽しかったね



傘もささずに泣いて歩いていたお嬢さん
ぼくをみつめて涙をひとつぶ
ぼくは同じ涙でできているよ大丈夫
そう伝えたくて見上げたっけ


ありがとうを伝えたくて
こんな地面のうえで出会えるなんて
ぼくはいつのまにか消えていくけども
ほんの小さなみずたまりだけど


きみをうつして
季節をうつして
みずたまりとして
一度きりを生きたんだ


青空にいつか帰ったときには
青色のひとつぶにもどって
ほこらしくいう


忙しいひとたちを見ていたこと
青いクルマに踏まれて小さくなったこと
誰にも気にもとめられなかったこと
だけど幼いきみたちがたくさん遊んでくれたこと


あの雨の日のお嬢さんの泣き顔も
週末の昼下がりには
きらきらを取り戻したよね
その晴れた美しい笑顔も
小さく半分になったぼくには
もうおさまらないし
うつらない
でも
それって素敵なことだよね



そうしてここで
みんなをそっと見ていたことを
白い雲にお話ししたいんだ


ありがとう







誰も気にとめないほど
小さなみずたまり

そこにも
じつは物語が
誰かの想いが
映っているのかもしれません

誰にも
気にもとめられないだなんて
それだけでも
とてもすごいこと
素敵なこと





ヘッダーの絵はいつでも
みずたまさん
パワーをいただいてばかりです

いつもいつも
ありがとうございます



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