国宝展の入場記録
2022/11/11 Fri. 東京国立博物館。アフター5に入館。
事前に聞いていた評判だと「とにかく所蔵している国宝/重要文化財を並べているだけなのでテーマ性は薄い」という様子を伺っていたのだけれど、個人的には思いの外楽しめたので備忘として2年近くぶりの鑑賞記録を残しておく。
2年前に投稿したゴッホ展の備忘録はこちら。
国宝 東京国立博物館のすべて
東京国立博物館 平成館
2022年10月18日(火)~12月11日(日)
1872年の湯島聖堂博覧会に端を発する東京国立博物館の創立150周年を記念して開催された特別展。
日本において国宝に指定されている902件中、同館が所有する89件の国宝コレクション全件の展示が特筆すべき点だが、それを第1部として150年の間に展示した各種重要文化財を含む作品によって博物館自体の歴史をテーマにした第2部を設けた2部構成となっている。
日本という国が大事にしてきた歴史的・文化的に価値があるものがどんなものなのか
これを1つのテーマとして捉えるとおもしろい企画だと感じられた。
会期により観られないモノはあるものの所蔵されている国宝だけで60数点、重要文化財やそれに並ぶ品が随時100点程展示されている。これ自体を1つの価値と捉える視点を得られたらどうだろうか。会場を歩きながら自分なりに得られた答えは 「芸術性以前に日本史上で価値を持つ文化財を100点規模の物量を通して確認できる近年唯一の展覧会である」 ということだ。
古代から近代まで時代を選ばず品々が置かれている上、展示物のコンセプトがある意味で偏っていない。一貫しているのは日本という国家が価値を認定している品々であるという点だ。その価値とは国家の歴史/文化に対する象徴性と考えられる。
先人が見出してきた価値がどこにあったのか。物量に任せて一挙に見通せるというのはなかなかの体験だった。
「この展示では絵画を見る」「この展示ではこの作者を見る」というようにテーマを絞って期待するには向かない企画であることは確かだけれど、雑多な品々に1つ筋を通して見てみるのも良いのではないだろうか。
以下、本記事では公式サイト掲載の画像を引用しつつ、主に目に止まった品々をピックアップして紹介していく。
エンドレス、これって教科書/便覧で見たやつだ!
「あ、これって!」
そんな感覚が退場までこれ程繰り返される展覧会も日本人的にそうはないだろう。
水墨画と言えばこれ、秋冬山水図
やはり目についたのは水墨画では国宝から雪舟の作。全作品の中でも目玉に当たる品だが、とくにラインナップを確認して行ったわけではなかったのでこれの実物を目にできたのは驚きでもあったし小学生の頃から好きだったのでよい機会になった。
誰もが知る日本画、風神雷神図屛風
同じく絵画では重要文化財になるが尾形光琳の日本画風神雷神屏風図も特筆に値するだろう。この風神雷神のイメージをモチーフとしても見たことがない日本人はほぼいないはず。
この屏風図が著名であるため名の知られている光琳作では他に国宝として類される硯箱も出店されていたけれど、改めて螺鈿細工がどういうものかというのを確認できた。
現代に残る古今和歌集、その一冊
書物であれば平安時代に編纂された古今和歌集なども趣向を凝らした紙が使われていて趣深く、当時の人達が和歌をどの程度重要視していたかを伺わせる。
古代日本を想起させる銅鐸、土偶
さらに古い出土品に行って国宝から銅鐸、重要文化財の土偶なども目にしたことがないという日本人はまず居ないだろう。
武家による文化を象徴する刀剣19口
このカテゴリは全作会期を通して入れ替わりなく展示されているが、保存状態はもちろんだけれど展示されているそれらすべてが国宝レベルの質を担保されているという点で、刀剣として"いいかどうか分からない"という自分のような人でも"いい刀剣とはこういうものだ"という視点で観覧できるという意味でおもしろい。
誰が言ったか天下五剣、童子切安綱、三日月宗近
童子切安綱はオーソドックスなイメージにおける日本刀としての完成度があるが、三日月宗近は他と比較して明らかに先細りの鋭さが目立ち違った風格を感じさせる。
殊更柄や鞘の装飾が目につく儀礼刀、梨地螺鈿金装飾剣
平安時代の作で日本刀が美術的価値を持ち始めたのは江戸時代以降という認識だったので、この時代からここまで粋を集めたデザインに価値を見出していたというのは1つの学び。
あとはゲーム「FinalFantasyTactics」で使っていた「塵地螺鈿飾剣」の読みをずっと「ちりじらでんかざり"つるぎ"」と読んでいたので読みが誤っていたと今更気付くきっかけになった。
日本刀の名産地備前より、大包平、備前長船
日本刀の名産地備前からは刀身の幅広さが一際目立つ大包平に、名工の代名詞と言っても過言ではない長船派・備前長船の一口が目立った。
サブカルオタクなら抑えておこう、正宗
前述に比べればマイナーでも
ただの木組みではない、木画経箱
遠目にはひし形の木片を組み合わせただけの経箱に見えるが、象牙や黒檀などが合わせ目にはめ込まれており近づいてみれば技工が凝らされているのがわかる。
太古に製造された青銅剣も
鉄器以前といえば青銅器だが、保存状態の良い実物が見られる。
意外なほどに大きな武人の埴輪
埴輪/土偶というとなんとなくドールやフィギュアくらいのサイズ感を思い浮かべていたがこの武人をモデルとした埴輪は高さ130.5cmと台座も合わせれば自分の身長と並ぶ。東京国立博物館と言えば数年前に兵馬俑をテーマにした特別展も観覧したが、日本にも同程度の埴輪があることを実感した。
日本らしさを伺わせつつ独自性を持った舟橋蒔絵硯箱
銅板を橋に見立てた硯箱は単純に仕立てがおもしろい。
鋳造品ながら緻密さが見事な鷲置物
重要文化財ながら、銅製かつ鋳造品ながら羽の1枚に到るまで精緻な細工で剥製のような雰囲気を醸す鷲は思わずケースに顔を近づけてしまう程の迫力があった。
他、イラストは掲載されていなくても名品の数々
公式サイトに画像の掲載がないモノでも名品揃いだ。
いくらかテキストベースで書き留めておく。
現代とはまるで違う形状の戦国時代の鞍/鐙
最近乗馬を始めた自分としては馬具としての鐙の形状におもしろさを感じた。
時代劇などでも鐙をまじまじと見たことはなく、乗馬用の鐙と言えば半円を台形寄りに歪ませたようなウエスタンムービーでよく見る形状をイメージしていた。しかし展示されていものは「つ」の字をひっくり返したような前側を覆ってしまう「鳩胸」を持つ湾曲した板で、裏側から足を突っ込む様な鐙を日本では用いていたらしい。
鐙と言えばというイメージに一石を投じてくれた。
19世紀を代表する版画、神奈川沖浪裏、月に雁
葛飾北斎のもっとも代表的なシリーズである「富嶽三十六景」、その中でも著名な「神奈川沖浪裏」を含む品の展示がある。版画家としては北斎と肩を並べる知名度であろう歌川広重の代表作「月に雁」もまたこの機に見るべき作品だった。
あまり覚えがないながらも独特な文様と飾りが目に付く饕餮文瓿
ぱっと見、ちょっと変わった路線を狙った近代の創作なんじゃないかと思わなくもない、中国殷代の青銅器らしく目録をざっと見ると図抜けて古い品である。
伝承にある饕餮という化生を模した頭部を含む大きめの装飾に添えて、表面を埋め尽くすようにぐるぐると細かいうずまき状の文様が覆っていて手を尽くした拵えが印象深い。
以上
編集履歴
v1.0 公開 (2022/11/27)
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