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ロスト②

翔はアルミホイルを剥がすと中からハート型のチョコレートが出てきた。少し見回した後、

「これは麗が作ったの?」

「そうだよ。昨日、お母さんが作ってたから作り方を教えてもらったの。」

「そうなんだ。それじゃあ、頂きます。」

翔は1つ丸ごと口の中に入れ、真一は端をかじった。

その映像を見ていた翔はベンチにチョコレートを置いて立ち上がった。

「駄目だ!やめろ!!やめてくれっ!!!!」

翔は画面の両端を掴み必死に揺らしながら叫び続けるが映像は止まらなかった。

次の瞬間、映像の中の翔は、

「うわっ、しょっぱい!」

と言って口の中にあったチョコレートを地面に吐き出した。真一は少量しか口に含んでいなかったので口に入れた物は飲み込み、残りを箱に戻した。

麗は何が起こったのかわからなかった。

翔は続けて、

「これ砂糖と塩間違えたんじゃない?全然美味しくない!」

麗は地面のチョコレートを見るとポロポロと涙を流し、泣いてしまった。真一は慰めたが翔はぺっと唾を吐いていた。

映像はそこで止まった。

「クソッ、何なんだ!俺は何やってんだ!」

翔は画面を殴り始めた。殴る毎に自分の脳に衝撃がきて、目眩がしたがそれでも画面を殴る事を止めなかった。

壊れない画面に肩で息をしていると両手で持てる程の石が校庭にあったのが目に入った。

「これで...。」

翔は石を手に取り、画面に向かって思いっきりぶつけた。少し画面にひびが入ったが、それと同時に頭が壊れる程の衝撃が走った。

それでもそれ以上に画面に映っている唾を吐いている自分の姿が許せなかった。

「はぁ...はぁ...もう一回...。」

翔は石を高く掲げもう一度、画面にぶつけた。

バリンとガラスを割る様な音を立てながら画面は割れたが翔も膝から崩れ落ちて倒れた。

ベンチに向かって這いずり、ベンチの上の箱を手に取ると中からチョコレートを取り出して口の中に入れて思う。

『あれから暫くの間、麗と口を利く事が無かった。

真一がどうにか間を持って、お互いに謝ってまた何とか仲直りできた。

麗と話せない間、すごい怖かった。

毎日、麗を目で追っても麗は俺を無視し続けていた。

生きている気がしなかった。

だけどまた話せる様になった時、ただ嬉しかったんだ。

でも...あの日から麗の手作りの料理を食べた記憶が無い...。

料理をしているのかもわからない。

バレンタインのチョコレートやクリスマスのケーキも全部買った物ばかりだったな。

あの時我慢して嘘でもいいから美味しいって言っていればもしかしたら今でも麗の手作り料理が食べれたのかな...。』

翔はあの日の自分の行動が悔しくて仕方がなかった。

考えれば考えるほど悔しくて涙が溢れてくる。

「麗...このチョコ...美味しいよ...。」

翔は目をゆっくり閉じるとその場から消えてしまった。




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