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縁の君へ④

麗が翔の額にタオルをあててくれたのはこの1度きりで翔は幼い麗を見ながらこの時の事を思い出していた。

『やっぱりあの時の麗...。』

確信を持った時に病院のベッドで横になりながら麗と目が合う。

何も言わずにただじっと見つめている麗に、

「ごめん。熱が出たとは言え、お遊戯会に行けなくて...ずっと謝りたくて...でも言い出せなかった。麗の事だからきっと何も言わなくても許してくれると思ったけど、ずっと言えなかったのが辛かったんだ。」

麗は何も言わずに翔の頭を摩った。

翔は今まで抑えていた気持ちが溢れる様に泣き出した。

こんな一言なのに。

ただ伝えられなかった。

生きていく中で後悔する事なんていくらでもある。

相手が何も思ってなくても自分には身体よりも大きな十字架を背負って生きていく感覚。

10年以上の月日が流れ、それを下ろした時の開放感。

そして冷静に麗を見て気付く。

言いたい事はもうひとつ。

「麗...こんな時におかしいかもしれないけど、俺さ...ずっと...ずっと麗の事が好きだったんだ。

その...麗が思う好きとかじゃなくて、麗と恋愛して結婚したいっていう意味の好きなんだ。」

麗はその言葉を聞くと翔の手を優しく握った。

そして優しく引っ張ると翔は起き上がった。

立ち上がって部屋のドアへと手を繋いで歩き出す。

酸素マスクが外れ、点滴棒が倒れ、全て消えていく。

そして麗が病室のドアを開けると何も無い真っ白な世界が広がっていた。

翔は麗と手を繋いでいたら何も怖くなかった。

むしろ幸福を感じながら何も無い世界へと歩いて行くのであった。

暫く歩くと病室のドアは勝手に閉まる。

翔はそんな事も気付かず、ただ2人で振り返る事なく歩き続けていくのであった。


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