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引き込まれた世界の中で③

「持田さん...一体何が...。」

「先輩...私...死のうとしたんです。」

「何で!?」

「何って...先輩にフラれたから...。」

「そんな簡単な事で死のうとしないでくれ!そんな事されたら俺は...。」

「俺は...何ですか?」

翔は返す言葉が無く、歯を食いしばった。

「これがトラウマになって恋愛出来なくなりますか?それとも私を追い掛けてきてくれますか...?」

結奈が真っ直ぐに見つめるその瞳は弱々しかったが翔から目線を逸らす事はなかった。

「そんな...こんな事で...。」

「先輩にとってはこんな事でも私にとっては一番大事な事なんです。ずっと追い掛けてきたんですよ...私...。」

「そんな...俺は...どうしたら...。」

「先輩がどうしようかは先輩の自由です。私の事はもう気にしないで下さい。この怪我では助かる事はないと思いますので...。でももし先輩が助けてくれるなら頑張れそう...。」

結奈はゆっくり目を閉じると、翔にもたれ掛かった。

「持田さん...?」

何の返事も無く翔は結奈の肩を揺さぶった。

「嫌だ!こんなの嫌だ!死なないで!!」

翔の身体が透けていく。その間ずっと結奈に声を掛け続けていた。

暫くすると翔は消えてしまった。

そして結奈はベンチに横たわっていたが目を開けて起き上がった。

「上手く出来た?」

屋上の扉の裏から静香が出てきた。結奈が指を鳴らすと先程まで血で染まった結奈と屋上は綺麗になった。

「どう?迫真の演技だったでしょ?これで武藤先輩に強く印象付いたはず。明日が楽しみ。ふふふ。」

「悪趣味ね。けどここまでしないと流石に気は引けないか...ここからは何か考えてるの?」

「ここからは何もしなくても向こうから来てくれると思うんだけど。」

「そうだといいわね。それよりも結奈が武藤先輩消す時に時間が掛かってたみたいだけどあれはシチュエーション作り?」

「そんな事するつもりはなかったんだけど武藤先輩が願ったのに全然消えなくて...。」

「そう...結奈がこの世界のマスターなのにイレギュラーがあったのね。何か不具合が無ければいいんだけど...。」

「考え過ぎだよ。それよりも作戦が上手くいった事を褒めてよ。」

「まだ最初の一歩でしょ。付き合って上手くいくまでまだ先は長いんだから油断しちゃ駄目。」

「もう。静香は厳しいなぁ。」

「とりあえず明日は武藤先輩がどう動くか見てみましょう。」

「そうだね。じゃあまた明日ね。」

「ええ。また明日。」

結奈と静香はその場から一瞬で消えてしまった。

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