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起きた朝に①

「...君...武藤君。」

誰かに声を掛けられて、翔は目を開けた。

見慣れない天井、いつもとは違う日差しが窓から差していた。そして少し横を見ると萌音が心配そうに翔を見ながら肩を揺らしていた。

「筒井...。」

「良かった。本当に良かった。」

「...えっ...。何が...?」

「寝てる時、だいぶうなされてたよ。あとこれ。」

萌音は翔の頬の手を当てて涙を拭き取った。

翔は寝ている間に泣いていた事に気付いた。

「ごめん...何か嫌な夢でも見てたのかな...。」

「わからないけど今度の試合の事でプレッシャーになってるなら無理しないで。いつもの武藤君でいけば大丈夫だから。」

「ありがとう。本当に筒井には迷惑掛けてばかりだな。」

翔は身体を起こそうとした時、身体に力が入らずに少し起こした身体をまた静かに横にした。

「あ...れ...。」

「どうしたの?身体の調子がまだ良くない?」

「大丈夫...。起きれるよ。」

翔は勢いよく身体を起こして、起き上がったのいいが違和感があった。それでもこれ以上、萌音に心配を掛けない様にしようと考えた。

萌音は自分の着替えを持って、

「私、向こうで着替えるから武藤君も着替えたらリビングに来てね。」

と言って部屋を出て行った。

翔も着替えないといけないとバスローブに手を掛けたが指先が震えた。

「どうして...。」

自分の両手を見て自分の手だと確信を持つと翔は両手をグッと握り気合を入れ直す。

「大丈夫。大丈夫さ。頑張らないと。」

翔は着替えを終えるとリビングに向かった。

「おはようございます。」

リビングには萌音の母親がおり、朝食の準備を終えた所だった。翔はバスローブを手前に出して、

「あの...これありがとうございました。どうしたらいいですか?」

と萌音の母親に言った。母親はちょうど着替え終えてリビングに来た萌音に、

「萌音ちゃん。武藤君のバスローブを洗濯籠の中に入れてきてくれる?」

萌音は返事をすると翔からバスローブを受け取り、洗濯室へ向かった。

「武藤君、朝ご飯にするからそこに座ってテレビでも見てて。」

翔はテーブルに着き、朝食が来るまでテレビを見る事にした。萌音の母親は台所を離れ始めていた。

一方、萌音は洗濯室まで来ると翔から受け取ったバスローブを見つめていた。

『これ...武藤君が着てた...。』

ゆっくりと自分の顔にバスローブを近付けるとそのままバスローブに顔を埋めた。

鼻で息を吸い込むと翔の匂いがした。バスローブを手元まで下ろすとまたバスローブを見つめる。

『練習の時と一緒の匂いだ。男の子の匂いってこんな感じなのかな?』

萌音は再度バスローブを顔に持っていくとまた匂いを嗅いだ。

『コンコン。』

洗濯室の壁をノックする音に萌音はビクッと身体を反応させた。萌音は振り向くとそこには母親がいた。

「お、おかっ...。」

萌音は手が震え、赤面し、涙目になる。母親は右手の人差し指を出してそっと自分の口に当てた。

「秘密にしてあげるから早くご飯食べに来なさい。」

と小声で言うと行ってしまった。

萌音はすぐさま顔を洗い、自分の顔を見ておかしくないか確認してリビングに向かった。


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