ロスト①
一方、その場に取り残された翔は周辺を何度も見渡したが人の気配はなく、結奈に言われた通り現実の世界に戻ろうと最後に寝ていた場所、萌音の家に行こうとしたその時だった。
ガサガサっと後ろで草が重なり合う音がした。
翔はすぐにそちらを見ると先程の少女の姿が見えた。
「待って!何もしないから!」
翔の言葉も虚しく少女はまた走りだす。翔もやはり追い掛けずにはいられない。
「何で...。ただ話したいだけなのに...。」
翔の思いも届かずにただ少女を追い掛けるだけだった。
着いたのは翔達が通っていた幼稚園。
運動場まで来ると少女は立ち止まる。
「麗...話したい事があるんだ...。」
翔が近付くと少女は消えてしまったが、それと同時に綺麗なラメの包装で包まれたハート型の箱がその場に落ちた。
それを手に取り、近くのベンチに座るとゆっくりと包装を剥がした。
小さな二つ折の手紙が入っており、表紙には『かけるくんへ』と不器用な平仮名が書かれており、開くと『だいすきだよ。あしたもあそぼうね。』と書かれていた。周りをクレヨンで装飾してあったが文字がそのせいで読み辛くなっていた。
「そうだ...。これはやっぱり...。」
翔の目の前に大きな画面が現れ、あの日の事が映し出される。翔は映像をぼんやりと見ていた。
それは翔が幼稚園の年長組の時だった。
幼稚園が終わり帰りのバスを待っている間、翔、麗、真一の3人は運動場でボールを使って遊ぼうとしていた。
「ねぇ、真ちゃん、翔君。今日は何の日か知ってる?」
真一と翔は顔を見合わせた後、
「知らない。何の日?」
と真一が麗に聞くと、
「今日はバレンタインデーって言って好きな子にチョコレートを渡す日なんだよ。昨日、お母さんと一緒にチョコ作ったの。真ちゃんと翔君にあげるね。」
麗は2つの箱を鞄から取り出すと2人に渡した。
2人は恥ずかしそうにしていたが真一は小さな声で「ありがとう。」と呟くと翔も続けて「...ありがとう。」と照れながら言った。
「開けてもいい?」
翔が聞くと麗は微笑みながら頷いた。
包紙を取ると手紙が入っており、開くと翔は顔を赤くした。ポケットに手紙を入れた後、箱を開くとハート型のチョコレートが5粒入っていた。アルミホイルで包装されており、それを剥がした。
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