観月 静香⑤

次の日の朝、静香は目を覚ますといつもの自分の部屋のベッドにいた。

それでも昨日の事は鮮明に覚えており、自分の部屋にいる事に少し疑問を覚える程であったが時間が経つに連れて現実を受け止める。

『やっぱりあれは夢だったんだ...。』

静香は学校に行く準備をしてリビングに向かった。

「おはよう。」

静香はテーブルに着くと、

「おはよう。静香、お誕生日おめでとう。今日はケーキを買ってくるから夜にみんなで食べよう。」

と母親が言った。静香は昨日の事で頭が一杯だったせいか母親に言われて今日が自分の誕生日だと気付いた。前に座っていた父親も「誕生日おめでとう。」と一言。

静香は朝食を食べると学校へ向かう。結奈とどんな顔をして会えばいいのだろうと考えながら時々、笑みが溢れた。

教室に入り、一番に結奈を探したが席にはおらず周りを見渡してもいなかった。

『まだ来てないのかな?』

静香は自分の席に着き、結奈を待つ事にした。

しかし始業のチャイムが鳴っても結奈は来なかった。静香はふと昨日の帰り際の結奈を思い出す。

やっぱりあの世界で何かあったのではないかと思い1限が終わった所で結奈に電話をしたが出なかった。

嫌な予感がした静香は鞄を持って学校を飛び出した。

一直線に結奈の家へと向かい、家に着く頃には息が上がっていた。

チャイムを鳴らして、

「はい。」

と結奈ではない誰かの返答があると、

「す...すみません。私、持田さんと同じ中学の観月と言います。持田さんはいらっしゃいますか?」

と焦り気味で話した。

「少しお待ち下さい。」

ドアが開くと1人の女性が出てきた。

「結奈のお友達?」

「はい、持田さんが心配で...。」

「結奈なら調子悪いみたいでまだ寝ているけど...。」

「すみませんが起きるまで待っててもいいですか?どうしても持田さんとお話ししたい事があるので...。」

結奈の母親はこんな時間に来るなんてきっと学校を出てきたと思い、それ以上に結奈と話したい事があるとただ事ではないと感じ取った。

「いつ起きるかわからないけど、それでもよかったらどうぞ。」

静香は家の中に上がらせてもらい、2階の結奈の前へと来た。

ドアの前には『絶対に起こさないで!』と貼紙がしてあった。電話に出なかった理由も夢の世界を邪魔されない為、サイレントにしているのだろう。

それでも静香はそっとドアノブに手を掛けて深呼吸。

音を立てない様にゆっくりと回して中に入った。

机の上にはアイドルエデンのグッズや人形が並んでおり、壁にはポスターが何枚も貼ってあった。

ベッドには横にうずくまった結奈が眠っていた。

眠っている結奈を起こす訳にはいかず、寝顔を見ると部屋の隅に座り、結奈が起きるのを待つ事にした。

30分しても結奈は起きる気配はなかった。もしかしたらと思って静香は鞄を置き、その上に頭を置いて横になった。

『結奈に会いたい。』

静香の意識は薄れていった。

次に目を覚ますと静香は辺りを見回してみた。現実とは何も変わらない結奈の部屋。目を閉じて想像すると手の上にアクセサリーが現れた。

夢の世界に来る事ができたんだと確信した。

ベッドを見てみると現実世界と同じ膨らみがあり、近寄ってみると結奈がいた。

壁の方へ横向きに寝ていた結奈を身体をゆっくりと引っ張って仰向けにすると手を伸ばし、結奈の頬を撫でた。

「ん...。」

結奈の目蓋がピクピクと動くとゆっくりと目を開いた。

「結奈!」

「おはよう...。」

静香は結奈に抱き付いた。

「ちょ、ちょっとどうしたの?」

「電話にも出ないし、家に行ってもずっと眠ってるし!どれだけ心配したと思っているの!」

静香の鼻をすする音や頬から伝わる水気。静香が泣いているのがわかった。結奈は静香の背中をポンポンと叩いて、

「ごめんね。もう大丈夫だから。静香の誕生日プレゼントを何にしようか思いつかなくて、こんな事しかできなかった。どうしても静香に喜んで欲しかったの。」

「私が生きてきた中で最高のプレゼントだったけど結奈が傷付いたら意味ないよ!」

「それもごめん...。私も一番真剣に考えたプレゼントだったから後の事なんて何も考えてなかった。ただ静香が喜んでくれればいいと思ったから。静香は私といる時にあまり感情を出さないから嬉しいとか悲しいとか怒ってるとかわからなくて。折角、引き出すなら喜んで欲しかったんだ。」

「嬉しいよ!結奈といる時はいつも嬉しい。私はずっと結奈と一緒にいたい!だから無理しないで!」

「うん...わかった。」

それから夢の世界で何かを創造したらその分、自分に負荷が掛かる事、そして結奈は夢の世界に入ってくる人間を好きな所に引き寄せられる事を聞いた。

それを聞いた後、あんなに大きなステージ、沢山の観客、アイドルエデンのメンバー、花火とあれだけ作ればどれだけ心が強くても疲弊するのはわかったが全ては自分の為と思うと静香は怒るに怒れなかった。

『14歳の誕生日。私は人生で最高の誕生日プレゼントをもらった気がしたんだ。』

2日も経つと結奈は完治しており学校にも登校できた。

そして結奈が学校に来ると静香はまた抱き付いて暫くは離さなかった。

そしてまた2人の日常が始まる。

アイドルエデンのグッズを買う時、ゲームをする時、何をするのも一緒。

しかし、そんな日は長くは続かなかった。


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