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観月 静香④

「それは...アサミと...みんなと踊ってみたいよ。沢山のお客さんの前で。現実ではアニメだし共演は無理で、本当のアイドルになってもあそこまでいける人間なんてほんの一握りだから...。」

「そうね。それにそこまで行くのに『絶対』はないし、何年経っても恵まれないかもしれない...。」

「一度でいいからあの25話の最後のシーンのライブの中で踊れたらなんていつも考えてる。」

「静香は本当にあの回好きだよね。もしあのシーンに入れるとしたらあのライブの曲『ドリーミンライブ』を完璧に踊って歌える様に練習できる?」

「あの曲のダンスなんか動画配信で百回は観たんだから。今でも大体は踊れるし、歌えるわ。」

「そう...じゃあ10日後の夜にこの中学校の運動場にステージ用意するからちゃんと練習しておいてね。」

「もう何言ってるの?ふざけてると怒るよ。」

「ふざけてないよ。静香の為に奇跡を起こす覚悟が出来たんだよ。」

「結奈が何を言ってるのか全然わかんないよ。ちゃんと教えてよ。」

「そうしたらサプライズが薄れちゃうでしょ。とりあえず10日後までにドリーミンライブを完璧に出来る様にちゃんと練習してほしいの。私を信じて。」

結奈が嘘を吐いているとは思えず静香はとりあえず曲の動画を何度も観ては練習した。

完璧にと言われたから何度も何度も時間があれば踊って歌った。

そしてこの10日間の間、結奈はどこかしら疲れが溜まっている様に見えたが静香の前ではいつも通りに振る舞っていた。

そして何度も「踊れる様になった?」と聞いてくるのであった。

10日後、放課後に結奈が屋上に行こうと誘ってきた。

「今日が約束の日だね。みんなには絶対内緒にしてね。」

結奈は首元からペンダントを取り出してロケットを開けると青い水晶が付いていた。静香の手を取り、水晶に触れさせると、

「お願いします。静香と一緒にあの世界に行きたいの。お願い、おばあちゃん。」

静香は何が起きているのかわからない。

「これで多分大丈夫...。静香、今から言う事を信じて欲しいの。今日の夜、10時には寝てて欲しい。私の事を想いながら。」

静香は結奈の言われた通りにした。

21:30、静香はベッドに入った。

『毒を食らえば皿まで』と言うのはこういう事なんだろう。だけど結奈は1度たりとも嘘は吐いたことは無い。

今、疑えばそれは結奈とこれ以上一緒にいられないと思った。最初の頃はアイドルエデンの為に利用していたのかもしれないがこの時は『友達』って思えていたから。

『結奈、貴方を信じてる。』

静かに意識が無くなっていく。

「...ずか、静香さーん。」

呼ばれた声に静香は目を覚ますと保健室のベッドにおり、横を見ると結奈が綺麗なドレスを着ていた。

外は暗く、保健室の蛍光灯がぼんやりと点いていた。

「こんばんは。」

「えっ!?ここは!?」

「落ち着いて聞いて。ここは夢の中の世界。これが屋上でしたおまじない。現実の私達は眠っているけど私達は意識を共有しているの。」

「そうなんだ...。結奈、その格好は?」

「私がアイドルエデンで一番好きなドレスとアクセサリーだけど変かな?」

静香は首を横に振って、

「可愛い。すごく似合ってる。」

「じゃあ静香も自分の着たいドレスを強く想像して。」

「うん。やってみる。」

静香は目を閉じて好きなドレスとアクセサリーを想像し、目を開けた。

結奈は微笑んで静香の手を引っ張って、全身鏡の前に立たせると、

「ほ、本当にこれが私...。すごい!すごいよ!」

静香は想像したドレスを着ており、飛び跳ねて喜んだ。

「まだ本番はこれからだよ。行こう。」

保健室から出て、暫く歩くと廊下の窓から運動場が見えた。

結奈の言っていた通り、大きなステージがあり、その上では数多の電飾の下でアイドルエデンのアイドル達が踊っており、その前には埋め尽くす程の客がペンライトを振っていた。

「これから私達、あのステージで踊るの。1度きりだから悔いのない様にね。」

それを聞かされた静香は立ち止まり、

「本当に?私達が...?」

「そう。最後の曲、ドリーミンライブだから。行こう、みんなが待ってるよ。」

結奈は静香の手を取り、歩き出した。

「あとひとつだけ。この世界から出る時は保健室で寝ていたベッドで眠ったら出れるから。それだけ覚えておいてね。」

それだけを言われ、ステージ脇に行くと曲が終わって暗転した。

アサミがステージ脇に来て静香の手を引っ張った。

「行こう、静香。」

静香は覚悟を決めて結奈と一緒にステージの中央に立った。

照明が点くともの凄い歓声が聞こえた。隣にいた結奈が、

「大丈夫?」

と声を掛けてくれた。

静香は微笑んで、

「うん。結奈と一緒だから大丈夫。」

と言うと結奈は頷いてマイクを自分の口元に向けた。

「聞いてください!ドリーミンライブ!!」

音楽が鳴り始めるとみんなが踊り出して観客はペンライトを振りながら声援を送った。

静香も身体に染み付く程、練習した曲だったので身体が勝手に動く。アサミと目が合うとアサミは微笑んでくれた。

『楽しい、本当に楽しい!人生で今が一番楽しいよ!ありがとう、結奈!』

最後に右手を強く上に突き出して曲が終わるとステージの後ろから何発もの花火が上がった。歓声も最高潮だった。

アイドルエデンのメンバーが、

「今日はありがとう!」

「また会おうね!」

と言って手を振った。

結奈と静香も手を振ってみんなと一緒にステージ脇へと歩いて行った。

静香は結奈に抱き付いて、

「すごい、すごい!!本当に凄いよ!!結奈、本当にありがとう!!」

「...うん...良かったね...静香...でもそろそろ戻らないと...。」

結奈は肩で息をして今にも意識を失いそうな程、目が虚ろであった。

「えっ...みんなと話してみたいよ。」

「お願い...嬉しくて仕方ないのはわかってるけど、私のお願い...現実の世界に戻って。私も後で戻るから。先に行って...。」

「...わかった。戻るよ...。」

静香は運動場を後にしようとして振り返ると結奈は微笑んで手を振っていた。

静香はそれ以降振り返らずに保健室のベッドに入って寝る事にした。

静香が見えなくなって暫くすると、メンバーやステージ、観客も全て消えた。

運動場にポツンと残された結奈は膝をついた。

「良かった...あんなに喜んでくれて...。お誕生日...おめで...とう...静香...。」

結奈はそのまま前に倒れるとゆっくりと消えていった。




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