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観月 静香⑦

中学3年になったとある日、

「ねぇ、私に勉強を教えてほしいの。」

結奈からの言葉に静香は戸惑う。

何せ今まで赤点目前の点数で進学してきた結奈が突然そんな事を言い出すのだから信じられないと思うのが普通であろう。

「武藤先輩と一緒の高校に行きたいの。」

それが一番の理由だと言う。

しかし結奈は今まで赤点目前の点数しか取っていない上にクラブも加入しておらず、委員会などにも縁が無く、内申点も壊滅的であった。

翔の高校は公立で偏差値もそれ程高くはないが勉強を全くしていないのであれば話は別であった。

私は私立高校を目指していた為、勉強はしており、成績も優秀な方であった。

しかしこの話をされた時に高校生になれば学校が別々になるという現実が突き付けられた。

私は結奈と離れ離れになる事に悩んだ。

今の結奈の成績では滑り止めの私立高校を受け、先輩と同じ高校はこのまま行けば落ちてしまうのが目に見えていた。

私が結奈の勉強に付き合えば自分の勉強が疎かになってしまう。

それでも結奈が理由がどうであれ、この公立高校に行きたいと言ってくれたのは私にとって朗報であった。

結奈の事だから相当レベルの低い高校へ進学すると思っていたから。

結奈と一緒にいたいとはいえ、そこまでは流石に落とせない。

私の本命は結奈と一緒の公立高校へ行く事になったが親は私立高校へ進学してほしいと言うだろう。

そして公立ももっとレベルの高い所を受けろと言うだろう。

前者は自分でどうにかできるとして後者はどうしようかと考えた。

あとは結奈に勉強を教えれば全ては上手くいく...と思っていたがそうはいかなかった。

結奈に勉強を教えるのも全教科でほとんど一からと言っても過言ではなかった。

それでも私は諦めずに中学3年のほとんどを結奈との勉強に当てた。

結奈も先輩と同じ高校に行きたいと言う願望が強かったのか弱音を吐く事は少なかった。

そして私立の入学試験。

滑り止めという事で結奈は自分のレベルに合わせた所を受けた。

私は親が行って欲しいと言う所を受けたがその答案用紙は名前以外は白紙で出した。

これが結奈と一緒にいる為の事。

合格発表の日、結奈は受かったらしい。私はもちろん落ちたけど。両親には残念そうな顔をして謝った。

「公立高校行って頑張りなさい。」

「...でもまた落ちたらどうしよう...お母さん、公立は少しレベル落とした所を受けようと思うの。高校でまた頑張るからお願い。緊張して手が震えるの...。」

「...あなたの人生だから好きにしなさい。公立には絶対に受かる様に。」

「ありがとう、お母さん。」

これでいい。あとは公立高校に2人で受かれば全てが上手くいく。

結奈の勉強も順調で私達は無事に公立高校へ合格した。

結奈は勉強を教えてくれたお礼にパフェを奢ってくれた。2人で食べているその時間だけで私の心は満たされた。

そして高校に進学すると結奈が動き出した。

今までとは違って結奈は全然上手くいかない。

私はそれを望んでいたのにここへ来てまた違う問題に直面する事になる。

ただ結奈の先輩への気持ちが無くなってくれればよかっただけなのに...。

『貴方が治らない傷を背負っては意味がないのよ...。』



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