探り合い⑦

『今は道化師でも構わない。全ての真実に辿り着いた時にこの仮面を外してみせましょう。

その時、私は現れる。』

今はそんな気持ちでいいと思った。

つまりは開き直ったのだ。

難しい事や不安な事ばかり予感してても切りがない。実際に今は持田さんの精神が不安定だからこれ以上は話さない方がいいだろう。

相手に濡れ衣を被せるのではなく自分で被ってしまえという事。

こんな戯けた食べ方で自分の方が限界を感じさせれば今は逃げ切れる。

これが一番簡単な方法なんだと思ってしまった。

「それもそうですね。先輩はきっと良くなって戻ってきますよね?」

少しかもしれないが持田さんが安心してくれたと…思う。

「ん…もちろんさ。幼馴染の俺が言うんだから間違いはない!」

真一は下手な作り笑顔をすると、

「ごめん、もうすぐ次の授業の準備があるから俺は行くよ。」

「そうですか。ありがとうございました。また明日、この場所で待ってますから。」

冷ややかな静香の言葉に真一の作り笑いは苦笑いへと変化しそうであった。

それでも真一はお盆を持って食器を返し、食堂を後にするまで特におかしな動きはなかった。

真一の姿がなくなると、

「はぁ〜、どうしよう…私のせいで先輩がレギュラーから降りちゃった…。」

大きな溜息と共に結奈が落ち込む。

「もうここまで来たらしょうがないじゃない。結奈だけの責任じゃないよ。」

「そうかなぁ…私が誘わなかったらこんな事にはならなかったのに…。」

「後悔しても仕方ないでしょ。もう私達は前に進むしかないんだから。朝にあれだけ威勢のいい事を言っておいて、いざ本人を目の前にしたら怖気付くのにはがっかりだわ。」

「うぅ…ごめんね。私…やっぱり人見知りかも…。」

「人見知りと言うか男性恐怖症なんじゃないの?本当に武藤先輩と付き合いたいのかしら?」

「それは…付き合いたいけど…その前に先輩がいなくなったらどうしよう…。」

「さっきの天城先輩を見習ってもっとポジティブに。とりあえずあの3人の関係がわかっただけでも一歩前進でしょ。あと天城先輩にもトラップを仕掛けられたし。」

「トラップ?」

「それは明日のお楽しみって事で。それよりも今度は神崎先輩にあたってみる?」

「何か静香が楽しそうに見えるんだけど…さっきも普段なら知らない人に対してあんなに喋る事ないのに…。」

「それは結奈の為に頑張ってるんでしょ。貴方がもっと天城先輩から情報を上手く引き出せていたら私は何もしないつもりだったわ。」

「そう言われると何も言えないよ。あと神崎先輩は武藤先輩と付き合ってはいないという事もわかったね。」

「そして武藤先輩が言っていたあの世界の中の少女は先輩の幼い頃の記憶の神崎先輩って事が濃厚なのかしら。」

「やっぱり神崎先輩にも話を聞いてみた方がいいのかな?昔の事とか…。」

「聞かなきゃ前に進まない。手掛かりはきっと武藤先輩と神崎先輩の幼い頃だと思うの。」

「次は放課後かな…?」

「とりあえずお茶でも誘ってみよう。」

結奈はゆっくりと頷いた。

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