夜に誘う③
バス停までの道をとぼとぼと歩いている間、真一は翔の事を考えていた。
『倒れてから翔の様子がおかしくなったのは間違いない。
あんなに頑張っていたのに...何があったんだ?
そして俺はどうして何も出来ないんだろう...。』
バス停に着くと時刻表を確認した。
あと9分で最終バスが到着する。
バス停のベンチに座り、ぼんやりと前を見ていた。
誰もいないバス停で1人、何も出来ない自分を責めた。
『本屋の帰り道、翔を見つけた時に様子がおかしかったからもっと翔の話を聞けばよかった...。
そうしたら今とは違う結果だったのかな...?
俺に何ができるんだろう...?』
自分ができる事を考えているとバスのヘッドライトが真一を照らす。
バスが真一の前で止まると真一は立ち上がってバスへと歩き出すが、
『どうしよう。俺はまだ何も出来てない。』
途中で立ち止まると、
「乗るの?」
バスの運転手が話しかけてきた。
「すみません。乗りません。」
と言うとバスは扉を閉めて行ってしまった。
『もし翔が夜中に目を覚ましたら聞きたい事を聞いてみよう。何があったのか詳しく...。』
真一は病院に戻ると先程、病室を案内してくれた看護師に声を掛けた。
「あらさっきの...。」
「もし翔が目を覚ましたら教えてほしいんです。あそこのベンチにいますので。」
真一はベンチを指差した。
「面会ができる時間までは長いわよ。帰った方がいいんじゃないかしら。」
「もう最終バスが出てしまったので...。」
「そう...座って待つのは勝手だけど...ちょっと待ってなさい。」
看護師はナースステーションから膝掛けを持ってきて真一に渡した。
「春とはいえ、まだ夜は冷えるからこんな物しか貸せないけど...。」
「ありがとうございます。」
「早く目を覚ますといいわね。武藤さんの枕元にはナースコールを置いてあるから起きたら押してくれるはずだから。」
そう言い残すと看護師は行ってしまった。
真一はベンチに座ると誰もいない病院のロビーで携帯電話を見ながら時間を潰した。
1時間、2時間と過ぎていく中、ただ待つ事しか出来ない自分の苛立ちを覚える程であった。
もしかしたらこんな事になる前に自分に出来た事があったのではないか?
父親から告げられた卒業後の自分の事もまだ何も決めていない事。
全て自分から動かないから何も変わらない。
だけどどう動いたらいいかわからない。
そんな堂々巡りを繰り返していた。
そしてうとうとと目蓋を閉じていくのであった。
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