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縁の君へ①

時刻は午前4:30。

外は暗く、部屋も暗かった。

真一との話が終わって10分。翔は目を閉じていたが眠れずにいた。微かに聞こえる真一の寝息。

『疲れてたのかな。こんな時に話す事じゃなかったかな?ごめんな...でもこんな時じゃないと話せない事もあるんだ。』

翔もゆっくりと目を閉じていった。

『真一にも会わせてあげたいよ。そうしたならきっと麗の事を信じてくれるはずなのにな...。』

そう思いながらゆっくりと意識は無くなっていった。

意識が無くなって暫くが過ぎた。

額にひんやりと気持ちの良い感触がした。

薄らと目を開けて横を見ると幼い麗が翔の額へ手を伸ばしていた。翔の額に水を湿らせたタオルをのせて戻す途中だったのであろう。

「ありがとう。」

目が合った麗に翔は一言、麗は頷くだけであった。

翔は仰向きのまま、過去にもこんな事があった事を思い出していた。

幼稚園の年長の頃。

翔は毎年10月にあるお遊戯会が嫌いだった。

9月の上旬から練習は始まるのだが翔は年少の頃に始まったお遊戯会から上手く出来なかった。その心残りから1年が過ぎ、またお遊戯会の季節が来たのだ。

クラス全員でカスタネットや鈴を鳴らしながら歌を歌うのだが、この時の翔は楽器に集中すると歌が、歌に集中すると楽器が疎かになってしまい先生に注意を受ける事が多かった。

そしてみんなが外で遊んでいる間、お遊戯会の練習を1人だけさせられる事がよくあった。

先生は優しく教えてくれるのだが翔は練習しても出来ない事に嫌気が差していた。

真一や麗も帰り道や放課後に一緒に練習を付き合ってくれていたが翔は上達せずにただ真一や麗の時間を奪ってしまっている事の罪悪感を覚えていた。

そしてとある日の放課後、近所の公園に集まって練習が始まる。

「アーイアイ♪アーイアイ♪おさーるさーんだよ♪」

麗は楽しそうにタンバリンを鳴らしながらお遊戯会の歌を歌っていた。

翔は楽しそうに歌いながらタンバリンを叩いている麗に見惚れていた。

「いいなぁ...麗は上手くて...。」

「私が歌うから翔は鈴、真ちゃんはカスタネット鳴らして。」

翔は麗の歌に合わせて鈴を鳴らした。

鈴を鳴らすだけなら問題無くできた。

だがこの時は歌っている麗に夢中になっていたんだ。




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