夜に誘う⑤
個室に入るとそのままベッドへ誘導された。
「横になってもらっていいですか?点滴や酸素マスクをセットしますので。」
翔はベッドに横になると看護師は酸素マスクなどの付け替えを始めた。
「これが終わったら天城さんを呼んできますのでもう少々お待ちください。」
翔は返事をすると枕に頭を埋めた。
暫くして付け替えが終わると看護師は個室を出て行った。
翔は窓の外の三日月を見ながら溜息を吐いた。
真一が来る直前になると何を話していいのか整理がつかず、混乱し始める。
やがて考える事にも嫌気が差してきた時だった。
個室の扉が開いた。
「どうぞ。」
看護師の後ろには真一がいた。
真一が個室に入ると看護師は扉を閉めて去っていった。
「よぉ。ごめん。迷惑掛けて...。」
翔は右手を少し上げて不器用に微笑みながら真一に挨拶をすると真一は近付いてきた。
「なんでこんな事に...?」
「さぁ...ちょっとした貧血だと思うんだけど大袈裟だよな...。」
それを聞いた真一は少し俯き両手の握り拳に力が入る。翔が救急車に運ばれる時の家族の顔を思い出していた。
「...いい加減にしろって。何かあったんじゃないのか?頼むから話してくれ。俺じゃ力になれなくても出来るだけの事はするから。」
「最近、身体の調子が悪いんだ。本当にそれだけだよ。」
看護師は神経系が悪いだけで身体は特に悪い場所は無いと言っていた。翔の言う事に嘘は無さそうだったが昼間の翔の様子が気になった。何もないとは思ったが、
「もしかしてサッカー部で何かあった?いじめとか...。」
と当てずっぽな揺さぶりを掛けてみた。
「...何もないよ。ただこんな直前で急に試合に出なくなったから迷惑を掛けて悪いとは思ってる。」
やっぱりきっかけが何もなく、勘じゃ何も動かない。真一はこれ以上食い下がる事をやめた。
「...そっか。じゃあ何日かしたらまたいつも通りになるんだな。」
「あぁ。たまにはゆっくり休む事も必要なんだよ。今まで休まずにずっと練習してきたツケがきたのかな。」
「明日の朝になったら翔のお母さんとお姉ちゃんが来るって言っていたから今日はもう寝たほうがいいかもな。俺はここの長椅子使わせてもらうよ。」
「姉ちゃんも来るのか...あんまり会いたくないけど...まぁ、寝ようか...。」
真一は部屋の電気を消して長椅子に横になった。
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