見出し画像

幼馴染の秘密④

真一は自分の家に着き、リビングを横切る時に父親が、

「おかえり、真一。」

と声を掛けてきた。時刻は18:30、こんな時間に父親が家にいるのはとても珍しい。普段は21時を過ぎないと家には戻ってこない。

仕事が早く終わったのか?離婚するのに家族サービスも何もないだろうに。リビングのソファに座りながらテレビを見ていた。声を掛けられた以上、返事しない訳にはいかなかったので、

「ただいま。」

と素気なく返事をして自分の部屋に行こうとしたが、

「少しこっちに来て話をしないか?」

何を話すのかは何となく予想がついた。

真一は父親の対面に座り、鞄を横に置いた。

「真一が高校を卒業した後の事なのだが、進路は何となく決めたか?」

「特には…。」

今は進路を考える余裕が無かった。

「だったらお父さんと一緒に田舎に帰ってゆっくりしないか?大学は行ってほしいが無理にとは言わない。真一が自分で考えたらいい。就職するのも進学するのも真一が決めればいいから。」

自分の将来は自分で好きにしたらいいと。その代わりに自分についてこいと言いたいのだろう。母親について行くには妹もいるから母親の負担が大きくなる。進学という選択肢は自動的に無くなってしまう。

そしてこの土地に残りたければ自分で金を稼いで住む所を自分で見つけるしかないという事。

一番簡単な答えは父親について行く事だろう。

そして父親について行くにしても条件がいくつかある。

「父さんについて行ってもいい。だけど1年浪人するかもしれない。あと翔や麗、家族以外の誰にも言わない事。この条件でいいならついて行くよ。」

父親は少し考えた後に、

「自分の人生だ。それで構わない。俺は2年までなら本当に行きたい大学があるなら浪人しても構わないと思ってる。だけどそれ以上は待てない。大学に行くなら滑止めは2年目は受けてもらうぞ。」

「わかってるさ。じゃあそれで構わない。」

真一は話し終えると立ち上がり、颯爽とその場を後にした。

「ごめんな、真一。」

ぽつりと独り言をこぼしたが誰にも聞こえる事はなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?