引き込まれた世界の中で②
その日の夜、翔はベッドに横たわりながら夜空を見ていた。
街が電灯や車のライトなどで明るく星は見えなかったが満月だけははっきりと見えた。
ぼんやりと眺めている間、翔は考えていた。
『好きという意味』
『持田さんの事、そして麗の事。』
答えは出ないまま翔はウトウトとしてしまい、そのまま眠ってしまった。
どれくらい眠ってしまったのか、眠っている間だけは何も考えなくてすむ。それでも目覚めた時、また昨日の続きが始まる。結奈と付き合う事を断った続きが。
翔の中で故意に誰かを傷付けてしまった事は初めてで眠っている間でも何度か頭を掠めた。
『あの時、どうしたらよかったんだろう...』
うつ伏せて眠っていると左頬が何だか冷たい。いや頬だけでなく地面に付いている部分全てが冷たい。何かの液体の上に寝ているかの様に。
翔は居ても立っても居られなくなり目を開けた。
腕で上半身を起こすと左頬から顎へ液体が進み、顎からポタポタと地面に落ちた。翔は下を見ると赤く染まった液体が服の前面を染め上げていた。
「な、何!?ここは...?」
家のベッドで寝ていたはずなのに気付いた時には学校の教室にいた。外は明るく、自分の周りには赤く染まった液体で囲まれていた。その液体が付いた跡は教室の扉にも付着しており、翔は血だと思っても信じたくはなかった。
とりあえず血痕が教室を出た後も廊下を辿り階段へと続く。翔はその血痕を辿ると屋上へと辿り着いた。翔は唾を飲み込んで覚悟をした。そして屋上の扉に手を掛けた。
扉を開けて屋上を確認すると、血痕はベンチまで続いており、ベンチには誰かが座っていた。
翔はベンチに近付いて行く中で結奈という事に気付いた。そして結奈は頭部から血を流し、全身血塗れである事も。翔はそこまで確認できると結奈に駆け寄った。
「持田さん、大丈夫?」
結奈は目を閉じていたが息があった。
翔は事態が分からず少々混乱気味ではあるものの結奈に声を掛け続けた。結奈は薄らと目を開けると、
「武藤せん...ぱ...い...。」
結奈は弱々しい声で呟いた後、右手を伸ばすと翔は両手でその手を握った。
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