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沢口靖子さんと不肖ワタクシ

テレビ朝日のドラマ「科捜研の女」についてTwitterで愛を叫び続けて幾年月、主役の沢口靖子さん演じる榊マリコと内藤剛志さん演じる土門薫の尊すぎる関係性に対する萌えは今もなお尽きない。

当初はその「どもマリ」の関係性に興味があるだけだったので役者さん自体にあまり興味がなかったのだけど、沢口さんと内藤さんが兄妹やら上司と部下、恋人や不倫関係まで共演を重ね行き着く先まで行き着いたと思われたその先で、恋愛感情を伴わない信頼という絆で繋がれたバディものに辿り着き「男と女がいたら、恋愛でオチをつけようとするじゃないですか、その方がわかりやすいし。でも、そうじゃないものになりたい(内藤さん談)」と高みを目指しているこの素晴らしい現実。役者さん同士のこれまでの歩みもきっと「科捜研の女」を面白くしている、現実と虚構が入り混じったこの感じ最高...と思い至ったわけです。

前置きが長くなりましたが、役者さんのことを知るって作品を楽しむスパイスの一つになり得るとわかってしまったので、ちょっと沢口靖子さんについていろいろ書き溜めていたのですが、作品を通して自分のものの考え方にも影響受けてたりするな...と案外新たな気づきも。よろしければお読みください。

女の幸せを考えさせられる作品

沢口靖子さんという女優さんを初めて見たのは、多分大河ドラマ「秀吉」だったと思う。竹中直人さん演じる秀吉の妻・おねを演じていて、兎にも角にも可愛い。最初は格差婚なので、百姓の家に嫁いだ育ちの良いお嬢様が野菜を洗ったりするのがちゃんと違和感を感じさせて小気味よく笑、家に帰って秀吉を迎えるときの笑顔なぞ大輪の花が咲いたような可憐さ。そして秀吉の話を聞き、信長からもらった褒美を一緒に喜び、彼と文字通り苦楽を共にする良妻を演じている。存在だけでもはや最高。

ただ、私の中で最も印象的だったのは、生まれたばかりの秀頼が泣き出して母乳の出ない乳房を咥えさせるシーン。市原悦子さん演じる大政所に「乳が出なくても咥えさせれば落ち着くよ」と言われて戸惑いながら勇気を持って咥えさせ、噛まれて痛いと言いながら笑い、涙を流す。子供を流産して二度と妊娠できなくなった女の悲哀、愛する夫の血を引いた子供が産まれたことへの喜び、そしてその子供を産んだ淀殿への嫉妬など全てが表現されている素晴らしいシーンだと思う。

余談だが、おねが自分の本音を言えるのが秀吉の弟の秀長で、高嶋政伸さんが演じている。恋仲みたいな雰囲気はないのだけど、共に秀吉を支えてきた同志という位置付けで、流産のことを唯一知ってることもありとても絆が深く、この2人のシーンがとっても良い。中でも終盤、もう自分は長くないと告げる秀長に、おねが「淀に秀吉を取られました」と泣き崩れるシーンが最高。秀長だけ、おねが絶やすことない笑顔の奥で世継ぎを産めぬ苦しみにどれだけ耐え忍んできたかを知っている。小一郎、と彼の膝に泣きながら縋る彼女のいじらしさ。彼女の痛みを1番わかっているのが義理の弟ってのがまた切ないのよねぇ...。(沢口さんと高島弟ってHOTELだと実の姉弟。沢口さん声のみだけど役者さんで面白いなぁ)

さて、なんでこんなことを覚えてるかって、子供を産めないだけで女ってこんなに生きにくいのかと思い知らされたドラマだったから。おねは戦国武将を支える妻としてかなり有能な人として描かれているけれど、あれだけの政治力を持ってみんなが彼女を認めているのに、側室が世継ぎを産んだことが彼女の心に影を落とす。女の喜びって子を成すしかないのか...と初めて疑問符が生まれた瞬間だった。

沢口靖子さんの作品だとホテルウーマンは未婚の母だし、シングルマザーズではDV夫から逃げてきた母親役。科捜研の女だとマリコさんはバツイチだけど、そんなこと気にせずになりふり構わず自分の仕事に邁進している。他にもたくさんあるけど、自分の身一つで道を切り開く作品が似合う。自立した女の人に憧れたのはこういう作品に出会えたおかげかも、と思ったりする。(この前のホテルウーマン、出てくる男がみんなクズすぎて萌えきれなかった...もっと早く出会いたかったな。)

ただ、不思議だなとも思う。沢口靖子さんは東宝シンデレラに18歳で選ばれたスターであり、たくさんの大人に囲まれて守られたお姫様みたいな人、という印象もあるから。

本当に「お姫様」なんだろうか?

沢口靖子さんといえば、よく話が出るデビュー作「澪つくし」。私は見たことがないのだけど、見ていた母とかはこの作品を基準に沢口さんの演技を評する。こう言う人、意外と多いんじゃなかろうか笑。私はそのことにあまり関心はないのだけど、内藤剛志さんと出演された『徹子の部屋』で「澪つくし」の撮影当時、友人と会って元気ないねと言葉をかけられた瞬間泣いてしまったエピソードにこれまた印象的だった。

沢口さんがどれだけ辛くても耐えようとしてしまうタチで、心配をかけないように家族に電話はかけなかったけど、目の前には与えられたものがたくさんあるからそれに向かって必死に走ってたと述懐されていた。この話は徹子さんが沢口さんと内藤さんは関西出身なのに訛りがないね、というところから出た話なのだけど、とても綺麗な日本語を話すのは、東京で身一つでやってこられた努力の証ってことなのかもしれない。東宝シンデレラってたくさんの大人に守られた存在だと思ってたけど、あまり当時のことを覚えてないって話はよくなさるのは必死に生きるので精一杯で覚えてられなかったからだろうし、内藤さんが美人って言うといい顔をしないって話をしてたけど、実力がないころから大きな仕事をしてきて苦心してきたからなのかなー...と。美人であることが当たり前な人にお綺麗ですねと言うのは褒め言葉にならない意味がよくわかる。当然だけど、その人のその立場での苦悩がないわけないのだ。

真面目さが生む笑いと狂気

古田新太さんのラジオで、ゲストの井口昇監督が一緒に仕事をしてみたい人として沢口靖子を挙げていて、その理由がすごく笑える。ちょっと音源を書き起こしてみた。

井口:沢口靖子さんにすごく興味があるんですよ。
古田:面白いよ靖子さんは。ある意味芸能界ズレしてないしね。チャリンコで美術館行って取材忘れてたとかね笑。
井口:ほんとですか!最高ですね!
古田:あと一緒に舞台やってて地方で千秋楽で、帰りは新幹線乗るわけですよ。1ヶ月ちょっと一緒に舞台のってきたわけだからヤッちゃんありがとね!とか言ってハグとかしたわけ。そしたら靖子ちゃんが「ごきげんよう」って。また公演あるから見にきてよって言ったら「遠くから応援してます」って笑。

こういう人だからタンスにゴンのCMとかできるんだろうなぁと。ナチュラルボーンでこのヤバさ笑。

でも、科捜研の女の撮影中の話を聞くと、ホテルにこもって台本と向き合う時間が多いという話の方が印象的。こういう俳優さんはまさに修道女に近いなと思う。心身を全て捧げ、全てを賭けるために地道な作業をコツコツ続けている。こういう人が1番強い。

CLAMPの東京BABYLONで、3人の高校生が特別な存在になりたいと禁忌の術に手を染める話がある。

主人公の皇昴流がそれを止めようとして返り討ちになったのを見かね、桜塚星史郎が彼女達にこのようなことを言うのだけど、これすごくいい台詞なのです。

この世で1番偉いのは
ちゃんと地に足がついて一生懸命普通に生活している人たちです。

毎日早起きして
毎日学校へ行って
毎日働いて
泣いて笑って悩んで苦しんで
一生懸命現実を生きている

それほど普通の人たちを笑うのなら
あなたたちはその普通の人たちと同じように生きていけるんですか?

この前読み返してこのセリフ読んだ時、沢口靖子さんの顔が浮かんだんですよね。

お姫様かもしれない。特殊な芸能界のなかで、スレずに普通に生きている。与えられた仕事をこなそうと日々現場で作品と向き合っている。地に足をついて、真摯にそれはもう懸命に。

科捜研の女のマリコさんの狂気さえ感じる目線、ゾクゾクするほど好き。真実を明らかにするためなら手段は選ばない、あのグレーゾーンな感じ。そしてそれを一切止めず一緒にどこまでも走っていける土門さんとのコンビネーション最高。

沢口靖子さんもあんな表情で台本に向かってるんだろうか。そうだったとしたら、たまらないなぁ。

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