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ある日


何かに嫌気がさしているけどそれが何か判然としない、毎日進化を続けてる便利にうんざりしてたし、世の中にある物の量は飽和したと感じて いた日々があった。そんな時、どうしてか分からないけれど私は山と山に生きる者たちにつよく惹かれていった。

最初は読書だけで山を求めた。「アルピニズムと死」「熊 撃ち」「第十四世マタギ」「山伏の流儀」「長野県警山岳救助隊」「八甲田山死の彷 徨」「山登り365日」「山怪」等々、とにかく読んで多分 4 ~5 年は本の世界にいてやっと、初めて一人で山に登った。

この日のために澄んだ音のする熊鈴を購入しておいた。見晴らしのいい場所で、取り出して鳴らした。それは空気にりーんと染み込んだ。どこかで鈴の音を聞いているかなー、と熊のことを想った次の瞬間、ものすごく強烈に後悔みたいな感情に襲われた。
嫌気がさしていたのはきっと自分自身にだったのかもしれなくて、私はいつからか天気を空にたずねることをやめていたし、自然と共存しましょうっていうたやすい言葉を心に留めて風の匂いにも花の開花にも夜の訪れにも鈍感になっていっていた。
ついさっきの路上で轢かれてたたぬきや、死んだ祖父たちの顔や自殺した友や死んでった猫たち、いつかの沢で腐り始めてた鹿や高校生の時に漠然と感じてたいつか自分が死ぬって考えとかが浮かんできて、車に乗ってここへ来て新品の登山靴でここに立ってる自分がなんか悔しくてその日はそれから、泣きながら山頂を目指すことになってしまった。

2018.5.28-6.3 Gallery Conceal Shibuya
ヘリオスと散歩その1
今はまだ、名前もない風景  

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