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羨んでも羨みきることはできない - セルフポートレート -

Miss Anna Claire

独身時代、わたしは売れるほど服を持っていて
それは私服として機能するものではなくて
撮影のためだけに、わんさか服をオンラインで買っては
紐で縛って束で保管しておくほどのハンガーを家に所有していた。

アクセサリーも、ヘアセット道具も
いつ使うの？というぐらい部屋中にころがっていた。

仕事が大好きなので、生活に困らないほどには稼ぎがあり
裕福な生活もしていなければ、貧相な生活もしていなかった。
それが当たり前になっていたし
家の壁という壁にドレスがかかっている生活に慣れすぎて
麻痺していたのかもしれない。

わたしは結婚してフランスに引っ越して
本来ならばたくさんの服や物を担ぎ持ってこようと思っていたのだけれど
COVIDの影響もあり、引っ越しは最小限にとどめて
最低限の生活必需品のみ持ってここにやってきた。

夫が一人で住む家にわたしのドレスをごっそり移動することも不可能だっただろうし、今でもドレスを買ってもどこに置こうかと迷うぐらい。
そんなお金もないし、場所もない。


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さて

今住む街の周りには山がたくさんあり、
とにかく美しい場所で溢れている。

こんな場所で3メートル靡くドレスでセルフポートレートが撮りたい！

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そんなことを思いながら、昔の写真を思い出して

ここの場所を撮影しておいて、
あの写真とPhotoshopでがっちゃんこしたら一枚の作品になるだろうか・・

なんて無謀なことを考えながら

光の角度が異なるのだから無理でしょ　と小声でツッコミを入れながら
一通り場所の撮影をする。

寝起きのまま夫に連れてきてもらった格好では
あまりにも作品にならなすぎる。
寝起きでなくても大した服は持っていないのだから
着替えたとしても作品としての体をなさない。


ドレスがないなら裸で撮れば良いじゃない

が口癖のわたしでも、さすがに散歩する人がたくさんいるここでの裸はわいせつ罪にひっかかりそうだし、
そもそも裸でここに立って目指す写真が撮れる気もしない。

本来わたしは哲学や信念が伴わない撮影はしない
しかし、あまりに美しい自然と光の調合に、どうしてもここでセルフポートレートを残しておかないと気が済まない気にもなる。

ただただ今この瞬間を残したいというJournalist精神かもしれない。


わたしがこの自然の美しさにあう洋服を持っていれば

わたしの背が高くて容姿がもっと美しければ

髪の毛を染め直すお金があれば・・

言い出したらきりがない。


しかし例えば、わたしが日本に戻って
毎日サラリーマンをして
土日に撮影するぞ〜なんて意気込んでいたら大雨だったりして
こんな美しい山を散歩することもなかったら

「こんな美しい山を訪れてみたい」とか

「こんなアーチがあれば綺麗な写真が撮れるのに」とか

そんなことを望んだのではないか。

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結局、人生のうちで全てを持ち合わせることはできない。
何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。

そしてわたしは完璧でないまでにも
今ある自分を今そのままで残すことしかできないのだろう。

それが母が買ってくれたUNIQLOのパーカーと
祖母が譲ってくれたお高そうなコートだったとしても。

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技術的な限界地点もそうだけれど

「今わたしにできることはこれだけだ」

「これがいまのわたしの限界だ」

はそこら中にころがっている。

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寝起きでぼーっと作業をしていると
夫が山にドローンを飛ばしに行くというので
持っている一番暖かそうな格好でついてきた。

顔がかわいくてスタイルのいいモデルはここにはいなくて
この景色に包まれているのはわたしだけ。

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わたしがもっと美しかったらよかったのに

しかし何かを犠牲にしなければ何かを得ることもない。


「こんな美しい場所にスタッフみたいな格好の人連れてきたの誰だ！」
という思いと

「こんな素晴らしい景色が見られて撮らないなんて人生の無駄遣いだ」

という思いが脳内で暴力的に葛藤する。

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2020年10月

わたしには
母が買ってくれたUNIQLOのパーカーと
祖母がくれた高そうなコートと
履き古したNew Balanceでこけの上を歩いて
Sony a7IIIに35mm SIGMAをつけて撮影することしかできませんでした。


5年後にはわたしのスペックはあがっているのか
また同じ場所で素晴らしい写真が撮れているのか。
衰えるだけなのか。

美しい山を背に歩きながら

羨んでも羨んでも羨み切ることはできないのだと

作品として相対的に0点だったとしても
絶対的評価の30点を与えてやろうと

自分を慰め、思う1日でした。

【PROFILE】
Anna Claire （和名: 須賀 えま）
セルフポートレートアーティスト
15歳からモデルを始めて22歳からカメラマンとして仕事を始め
現在はフランスでセルフポートレートを撮影している。
■ Portfolio: https://annaclaire.pb.online/
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