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愛とSIX

内容紹介
もし絶対に運命の人と出会えるとしたら? 

>「知り合いの知り合いの知り合い……」で、世界中の人は皆6人目までにつながってるって、知ってた?
「スモール・ワールド」とかっていうらしいの。

っていうことは……知り合いの知り合いの知り合いって辿って行ったら……私の「運命の人」ともつながっているはずよね?

絶対に浮気しない、私の「運命の人」って、世界のどこにいるのか分からないけど。
それも6人目までに!!
それなら、辿って行ってみよう、って感じよ!<

愛とSIX

DESTINY-1 スモール・ワールド

Ch2 池内

世界は狭いっていうか、6次の隔たりで世界中の誰ともつながっているらしい。知り合いの知り合いの知り合い、て。
ということは、世界のどこにいるのか分からない、私の「運命の人」ともこのネットワークを手繰って行ったら、少なくとも6人目で出会えるってことだ!
「運命の人」っていうぐらいだから、その人は絶対に浮気なんかしない。この「浮気される遺伝子」のせいで、ウチの先祖代々シングルマザーの家系は宿命に泣かされて来た。
でも、スモール・ワールドの法則に則ることで、この遺伝子を組み換えることもなく、私は宿命を転換してみせる!

こんなこと、肉食系の小林美咲(31)に説明しても全然ダメ。美咲は小学校の頃から一緒にソフトボールをやって来た親友で、今も同じ社会人チーム(日本リーグ女子2部)でプレイをしている。
美咲は本当は男に生れる運命だったのだ。その証拠に人差し指より薬指の方が長い。魚屋の娘で母親が売れ残った魚ばかり食べ過ぎて、胎児の時に男性ホルモンを浴びまくってしまったからだ。
智子に言い寄って来る男にはゲイが多い。よくオカマと間違えられるらしい。あとで本物と分って、逆にふられるのだ。ちょっと、運命って悪戯し過ぎだよね。

もし最新の元カレ(桑野)の紹介した人も「運命の人」じゃなかったとして、最悪、別れることになったとしても、スモール・ワールド・ネットワークで行けば、もう3人目なんだから。
ということは、少なくとも、あと3人目以内で私は「運命の人」と出会えるんだ!
もうこれで3人目なんだから、もう失恋も多くてあと3回までで済むってわけだ! それで次には「運命の人」に出会えるってわけだ!
もし失敗しても、ひとつ「運命の人」に近づけるんだ! それなら失敗は失敗じゃない。ひとつ失敗するごとに一歩、成功に近づく! よし! それなら思い切って行ってやれ!
て感じよ。

でも、美咲は私より浮気メンの方をかばうんだから、腹が立つわよ。新しく元カレになった人たちには、プロ野球名球界入りみたいにブレザーを着せてやったらどうか、なんて言う。信じらんない。本当に親友なのか、時々疑いたくなる。

美咲はスモール・ワールドなんて面倒くさいって言うけど、迷路だって、右手の壁に触れながらずっと歩いて行けば、時間はかかっても確実に出口に辿り着けるんだから。愛の迷路も同じよ。急がば回れで確実に「運命の人」に辿り着けるのよ。

新しいカレ=池内大輔……確かに仕事一筋。ビールの営業で飲み屋を回っている。それだけじゃなくて、やっぱり他社製品も飲み比べて研究しなくてはいけないんだって。だからビールだけじゃなくて、いろんなお酒のことを知っている。
初めてのデートはワイン・テイスティングに連れて行ってくれた。ちょっと大人の世界って感じよ! グラスの持ち方や色の見方、カレはクラッシャー(吐器)にピュッと吐くのも上手くてかっこいいんだけど、私はついつい飲んじゃって、酔っ払っちゃったわ。なんだか勿体なくって。
白~ロゼ~赤、と順を追って渋みの多いものに移っていく方が舌のためにいいとかっていうけど、最後に一番渋いのはカレとのキス。でもそのあとでワインみたいに私の唇をしなやかだのビロードだのと言うのはやめて欲しい。
「運命の人」なのかどうかはまだ分らないけど、カレの身体のことが心配。飲み屋をハシゴしたら、次の日は病院をハシゴするの。ただのワーカーホリックの職業病だって、笑って、10枚以上ある診察券をトランプのようにシャッフルして見せてくれる。

ワイン・テイスティングが気に入ったって言うと、カレは他にブランデーのテイスティングやウォッカのテイスティングやテキーラのテイスティグにと私を連れて行った。
だんだんきつくなっていく……なのにカレがいつも上機嫌なのとどこでも何人か同じ顔を見かけるのを不思議に思っていたら、もっと不思議なテイスティングに連れて行かれた。
「バクダンのテイスティング? なんじゃそりゃ?」
昔の強烈なお酒で復刻させたらしく、いかにもガラの悪そうな連中ばかりが参加していた。
「ねえちゃん、これ、一発で人間やめられるで!」
ダメだこりゃ。これがカレの正体だった。
もう浮気男とアル中男だけはゴメンだ。そう言えば母もアル中男とつき合ってた時があった。「浮気される遺伝子」以外に「アル中男とつき合う遺伝子」てのもあるのか?

自宅に帰ると、小学校の時から部屋に貼っているポスターの西武ライオンズ・伊東勤捕手が私にピッチャー交代を勧めてきた。そろそろスモール・ワールドか?
私がブルペンの用意が気になり始めたその頃、カレはテイスティングの仲間の一人を紹介してくれたわ。
その人=榊原聡(30)さんは……お医者様! カレの「行き付けの病院」の先生だって。

これって職業病かな? 私は社会人ソフトボールチーム(日本リーグ女子2部)の試合、練習がない時は電車の車掌をしていて、いつもお客様にこんなアナウンスをしている。
「~へお越しの方はお乗換えです!」
先生を見ているとこの台詞が頭をぐるぐる回るの。酔っちゃったのかな? それとも病気かな? 先生、診て下さ~い!


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