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オテントサマはオミトオシ

内容紹介
『オテントサマはオミトオシ』【ノベル形式】

 超小型カメラとマイクを自分の眼と耳の近くに装着し、とらえた映像と音声をそのままスマートフォン、ネットを通じて「ダダ漏れ配信」する「ダダモリスト」の真銅克也。優秀な技術者である彼は、もっと自分をさらけ出す方法を開発した。
 頭に簡単なベルトを巻いて自分の脳波を測定し、その脳波と、それをスマホのアプリで瞬時に解析することで、思考した内容を映像と音声でネット配信することができるのだ。
 頭の中にはカメラはないはずだが、頭の中を映し出すことができる。
 その真銅が政府特殊機関に連行される。
「心の露出狂」ということが理由ではなさそうだが……。

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『オテントサマはオミトオシ』1

 街はカメラで溢れている。常に誰かから監視されている。
 それなら逆にさらけ出してやれ、という者も現れた。彼らは超小型カメラとマイクを自分の眼と耳の近くに装着し、とらえた映像と音声をそのままスマートフォン、ネットを通じて「ダダ漏れ配信」した。
 彼らは露出狂の一種なのか、自分の人生をさらけ出し、「ダダモリスト」と呼ばれていた。
 彼らは人気者だった。ネットで彼らの人生のすべてを知る聴衆にとって、彼らは自分の子どものような、家族のような存在で、他人には思えず、街で彼らを見かけると、親しく話しかけるのが常だった。
 ダダモリストという遺伝子はあるのか、彼らのなかには、自分の子どもが生まれると、名前を付けるよりも先にカメラとマイクを着けさせる者もいた。彼らは、本当は誰もが自分自身をさらけ出したいのだと、心ではそう思いながらも人目を気にして勇気を出せずにいるのだと思っていた。
 なかでも真銅克也はカリスマ的ダダモリストであった。優秀な技術者である彼は、もっと自分をさらけ出す方法を開発した。
 頭に簡単なベルトを巻いて自分の脳波を測定し、その脳波と、それをスマホのアプリで瞬時に解析することで、思考した内容を映像と音声でネット配信することができるのだ。
 頭の中にはカメラはないはずだが、頭の中を映し出すことができる。
 真銅が開発した脳波ダダ漏れツールは増殖するダダモリストのあいだで大流行した。
 しかし、彼らの周りの者は大迷惑だ。プライバシーも何もあったものじゃない。同じく優秀な技術者で真銅の恋人である弓長恵利は怒りを抑えきれず、彼に無茶な要求を突きつけた。実現できなければ別れるというのだ。
 ネットでそれを知り、真銅に同情した聴衆は全力で恵利の怒りの要求を次々に実現してくれた。なかでも時の政権を動かし、レバ刺しが解禁されたことは、恵利のみならず全国民を歓喜させた。
 だが、彼女が大ファンである超大物ロック・グループの再結成と来日コンサートと彼女のひいきプロ野球チームへの超大物メジャーリーガーの入団だけは実現することができなかった。
 ところが恵利が別れを決意しようとしたとき、この2つの夢も実現する。予想外のことに恵利は歓喜した。が、その直後、なぜか彼女のもとに政府特殊機関の高官である上田二朗が現れ、彼女を連行して行く。

 無理な要求と思われた、恵利の2つの夢は、実はこの政府特殊機関が超高額の機密費を投入することで実現されたのだった。
 しかし、それは恵利の要求によるものではなく、テロリストが政府を脅迫してきたからであった。いわばテロリストが恵利の望みを叶えてくれたのだ。

 実は政府も真銅の脳波ダダ漏れ配信に注目し、監視していた。その脳波には、表面に現れている思考、意識のほかに、「無意識」が調波として含まれていることが政府特殊機関の研究で明らかになった。
 その真銅の無意識を分析すると、現在のベルト式脳波測定器の何倍もの高精度を可能とするアイデアと技術が含まれていることが分かり、政府はそれを秘かに利用し、そのシステムを開発していたのだった。それは――

 人工衛星「オテントサマ」から地上の人々の脳波を測定し、その人々の思考、意識も無意識も瞬時に解析して、知ることができる

 ――というものであった。こうなれば、もはや監視カメラのレベルではない。まさに「お天道様はすべてお見通し」なのだ。
 近年、政府は世界各国との自由貿易交渉に苦戦していた。ニッポンジンは交渉事が得意ではなく、そのために交渉相手の心を読み取って、先手を打つ方法を考えていた。そこで政府は、見つけた真銅のアイデアと技術を盗んだ、ということだった。
 ところが、こうして開発した「オテントサマ・システム」がテロリストにハッキングされ、奪われてしまったのだ。
 テロリストはオテントサマ・システムを使って、日本国内の人々の思考、意識、無意識から、当然、コンピュータのパスワード等を含め、すべての秘密情報を掴んでいた。そして、もし要求を拒否したならば、これらを暴露すると脅迫してきたのだ。実際に最近、大物政治家の一人にスキャンダルが発覚し、失脚するという事件が起きていたが、これはそのテロリストが情報流出させたためだった。

                       ― つづく ―

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