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ビューティフル・ネーム

内容紹介
『ビューティフル・ネーム』【シナリオ形式】(400字×10枚)

もし変わるべき時かなと思ったら?

そんなストーリーをテラってみました!

ビューティフル・ネーム_page-0001

○ 西家・ダイニングキッチン(日曜・夜)
   西要子(二六)と母・好江(五二)が
   夕食を作っている。
好江「(味見をして)うん。おいしい!」
要子「(笑い)免許皆伝!かしら?」
好江「それは甘い!主婦道は厳しいのよ」
要子「免許取得ってとこですか?」
好江「うん。でも、なかなかの大型ルーキー
 よ。ドラフト一位!きっと高く売れるわ」
要子「契約金一億円!」
好江「うん?結納金十万円ってとこかしら」
要子「(笑い)」
好江「多田要子デビュー!いよいよね」

○ オフィス街の公園(昼)
   要子たち、OL仲間との弁当タイム。
全員「(大笑い)」
女A「ババフミはかわいそうよね」
女B「そりゃフミちゃんも考えるわよ」
要子「そのためかな?夫婦別姓って」
女B「馬場さんて、いい男なんだけどね」
女A「フミちゃん、特に関西の子だし、ババ
 フミなんて呼ばれるの、私でも嫌よ」
要子「でも、フミちゃんのお父さん、姓名判
断であの名前にしたそうじゃない」
女B「そう!女の子だし。結婚運が一番良か
ったんだって!」
全員「(大笑い)」

○ オフィス
   要子たち、昼休みを終え、帰ってくる。
   後輩の松村弘之・利恵夫妻が来ている。
要子「まあ!津村さん!」
利恵「要子さん!結婚式でのスピーチ、どう
 もありがとうございました」
要子「あっそうか。まあ!津村さんじゃなく、
 松村さんに変わったンだ」
利恵「ええ。マがついただけだから、あんま
 り変わった気がしなくて」
男A「(弘之に)こいつ、名前にまで、マが
さしよったんかいな」
男B「言ってたもんな。魔がさして、つい、
 できちゃった結婚になったンだって」
弘之「いや、あの…」
男A「マがさしたぐらいじゃ子供は出来へん
で!(弘之の下半身を触って)何か他のモ
ン、刺したんとちゃうンか!」
全員「(大笑い)」

○ 西家・ダイニングキッチン(夜)
   要子、好江、食事中。談笑している。
要子「でも、お父さん、本当は私にお婿さん
 を貰って欲しいンじゃないの?」
好江「……」
要子「西の名前、お父さんの代で消えちゃう
ンだもんね」
好江「……」
要子「お父さんって、どっちかって言うと、
昔気質の人よね…。職人だし。俺が頭領
だ!俺は一人でもやるぞ!って感じでさ」
好江「いいのよ。そんなこと気にしなくて。
あなたは、あなたの幸せだけを考えたら」
要子「……」

○ オフィス街の公園(昼)
   要子たち、OL仲間との弁当タイム。
全員「(大笑い)」
   要子一人、浮かない顔をしている。
女B「今日び、そんなこと考えている人、い
 ないわよ。ねぇ!」
女B「でも、要子のおとうさん、職人さんだ
ったわね」
要子「(頷く)」
女B「そういう人って結構、拘るのよね…」
女A「父親って、娘を嫁にやるの、よっぽど
辛いらしいね」
女B「もう、なんだかんだって、男にいちゃ
 もん付けちゃってさ」
女A「それだけ可愛いのよ。娘が」
要子「……」
女B「そう言えばさあ、私の親戚で、佐藤さ
んていう人がいるンだけど、一人娘が結婚
することになってぇ」
女A「名前が変わっちゃう、と…」
女B「佐藤って名前、すごく多いじゃない」
女A「そうよね。一番多いんでしょ?」
女B「二番なのよ。一番は鈴木で、彼の名前
が何と、鈴木なのよ。それでお父さん、佐
藤をトップにするんじゃあ!とか、佐藤が
日本を征服するんじゃ!とかって言って、
鈴木さんとの結婚を許さないのよ」
女A「はあ?」
女B「鈴木は卑怯じゃ!魚にまでスズキの名
 前を付けよって!」
女A「男って馬鹿ばっかり」
女B「養子にするのなら許してやる、なんて
言って…」
女A「もう、先、言わなくていい」
女B「結局、別れちゃった」
要子「……」

○ 公園(夜)
   要子、婚約者の多田勇次(二六)と。
要子「ねえ、ちょっと相談があるンだけど」
勇次「?」
要子「この指輪、すごく気に入ってるンだけ
ど…」
勇次「?」
要子「(指輪を眺めながら)同じYTのイニ
シャルもすごく、嬉しいし…」
勇次「……」
要子「ユウジ&ヨウコ・タダのYT。それに
イエスタデイ&トゥモロウで、あなたの言
う通り、希望に溢れていて素敵だし…」
勇次「ビートルズのレコードアルバムにもそ
 んなタイトルがあったんだよ」
要子「でも、駄目なの。お父さんがかわいそうなの。西の名前が消えちゃうの」
勇次「名前ってそんな大切なものなのか。西
の名前が要子を幸せにしてくれる訳じゃな
いだろう」
要子「それは多田の名前も同じじゃない!」
勇次「……」
要子「だったら、あなたが養子になってよ。
西を名乗ってよ!」
勇次「多田の名前は俺だけのものじゃない。
俺は親父から名前だけじゃなくて、会社も
受け継いでいるンだ。今更、何を言ってい
るんだよ」
要子「今更って何よ!諸行無常だ!常に変わ
ることを恐れちゃいけない、なんてかっこ
いいこと言っちゃってさ、うちの会社辞め
たくせにさ、結局、既成概念に縛られて、
会社も、名前も、何もかも、そのまま受け
継いでるだけなんじゃないのよぉ!」
勇次「要子?」
要子「何かを受け継いでいるのは、あなただ
けじゃないわ。私もお父さんから愛情を受
け継いでいるのよ。あんな恐い顔したお父
さんだけど、すごく優しいんだから!」
勇次「落ち着けよ、要子」
要子「落ち着いているわ。でも、これからの
女は家庭に落ち着けばいいってもんじゃな
いのよ。あらゆる面で自立しなけりゃいけ
ないのよ」
勇次「要子……」
要子「(指輪を外しながら)私はYTじゃな
いわ。YTにはなれないわ」
勇次「おい、待てよ」
要子「(席を立ちながら)イエスタデイ&ト
ゥモロウだけが希望じゃないわ。アメリカ
では、行き詰まったら西へ行け、って言う
し。あなたが来てもいいじゃない。西へ」
勇次「要子!」
   要子、店を出ていく。

○ 西家・ダイニングキッチン(夜)
   要子、好江、静かに食事している。
   そして、父・洋平(五五)がいる。
   要子の指に、指輪がない。
   要子、食事を終えて自室へ行く
○ 要子の部屋
   要子……。
洋平の声「(ノックして)要子、入るぞ」
要子「……」
   洋平、好江、入ってくる。
洋平「要子、母さんから聞いたぞ」
要子「……」
洋平「要子、お前の名前はこういう字で書く
よな。俺のどんな気持ちがこもっていると
思う?」
  洋平、紙に「要子」の字を書き出す。
要子「頭領の娘だもんね。要の子。みんなを
引っ張っていくような子。昔、お父さんよ
く言ってたから。よく覚えてる」
洋平「まだ、他に意味があるんだ」
要子「?」
洋平「要子は女の子だ。いつか、西の字は消
 える。だから…」
   洋平、「要」の字を指さして
洋平「ここに西の字を入れたんだ」
要子「!」
洋平「俺の子だ。俺の洋の字を入れようとも
思ったんだが、ヨウの音だけを残して、
『西の女』という字を選んだ」
  「要」の字。
洋平「お前の名前には、ずっと西の名前が生
 きている。俺も生きている。」
要子「(洋平を見つめて)…」
   洋平、「要子」の字の「女」と「子」
   を丸で囲む。
洋平「実は、ここに、好江の名前も入ってい
 る。生きているんだ」
好江「(照れ笑い)」
要子「(好江を見つめて)…」
好江「要子、私は名前に子の字がついている
女の子が羨ましかったの。私が若い頃の流
行りだった。それで要子には付けたのよ」
要子「(微笑)」
好江「私も、好江の名前は父から貰ったわ」
要子「(微笑)」
好江「(微笑んで)でも、西の名前は私が選
んだのよ」
要子「!」

○ 公園(夜)
   要子、勇次と歩いている。
要子「(微笑んで)そう…。私も、多田の名
 前を選びます」
   間。
   勇次、指輪を取り出す。
   間。
   要子の指にダイヤが光る。YTの文字。
   間。
要子「(微笑んで)はじめまして。多田要子
です」
  二人微笑む。
要子「よく考えたら、良い名前じゃない。多
 田要子。多田要子。多田要子…」
   間。
要子「うん?ただよう…こ?私、漂うの?」
勇次「?」
要子「ああ?ただ…ようこ?やだ、なんか、
 酔っぱらいみたい」
勇次「(大笑い)」
要子「ああ!あなたがなんで笑うのよ!あ~
あ。やっぱり夫婦別姓にしようかな~」

               ―終わりー

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