見出し画像

愛とSIX

内容紹介
もし絶対に運命の人と出会えるとしたら? 

>「知り合いの知り合いの知り合い……」で、世界中の人は皆6人目までにつながってるって、知ってた?
「スモール・ワールド」とかっていうらしいの。

っていうことは……知り合いの知り合いの知り合いって辿って行ったら……私の「運命の人」ともつながっているはずよね?

絶対に浮気しない、私の「運命の人」って、世界のどこにいるのか分からないけど。
それも6人目までに!!
それなら、辿って行ってみよう、って感じよ!<

愛とSIX

DESTINY-2 「6次の隔たり」、それぞれ

Ch6 香織

智子には悪いが、香織に乗り換えさせて貰った。まさか自分よりも可愛くない女に、このイケメンでしかもMBAを取っている国会議員のカレを奪われるとは思わなかっただろう。

一人娘の香織が、いずれ父親が経営する葬儀会社を受け継ぐことは間違いない。
そこは、シビアなこのご時世に最後に残ったどんぶり勘定の楽園だ。大きい声では言えないが、かなり儲かるらしい。人口減少時代には一兆円産業になるって試算もある。
それに人間、誰しも死というものは避けられない。ああいう所は色々なタイプの人間が関わり、出入りする。まだこのネットワークは4人目だ。この先にはすげぇ、いい女がつながっているかも知れない。よし、このまま流れに乗って行こう。

流れっていうものは無理に変えようとするとかえって前より悪くなるものだ。俺は以前、流れを変えようとして、よく鳴き麻雀をするタイプだったが、あれで流れがいい方に変わった試しがなかった。男はグッと堪えて流れを引き寄せなくちゃダメなんだ。
ただし待っているだけではダメだぞ。俺には狩猟民族の血が流れているんだから。

「なんじゃそら? 無理せんとまた愛ンとこ、戻ったらええねん。ええ女やで、愛。それ、裏切る奴の気が知れんで」
だと。アンタ=大島誠(34)が浮気して、それで代りにって、このイケメンの俺を愛に紹介したんだろうが。
こんなのが俺の政策ブレーンだってんだから頭がいてぇ。個人でシンクタンクやら経営コンサルタントやらを手掛けている。下品な奴だが、仕事が出来るから、仕方なしにオヤジの代から、組んでいる。悪い奴じゃねぇ。……いや、悪い奴か?
「まぁ、ちょっと俺には抱き心地が物足りひんけどな。もうちょっと、がぶり寄り! みたいなんが無いとな。ちょっと淋しいな……淋しいなぁー」
そんなこと知るか。そもそもそこからスモール・ワールド・ネットワークは始まったんじゃねぇか。その意味も分ろうとしねぇ。これだから関西人は信用できねんだ。何が臨機応変だ。こちとら江戸っ子なんでぇ。生れも育ちも浅草橋よ。真っ直ぐ進むしかねんだよ。確かに愛はいい女だったが、もう過去の人なんだ。もう二度と会うことなんかねんだよ!

ルックスにあまり恵まれない香織は、積極的に出会いを求めて色々と習い事に行っていた。
そのひとつにワインのテイスティングがあったことは知らなかった。
そこで榊原という将来、総合病院に拡大することを目指している野心家の開業医と出会い、香織は葬儀会社としての営業で何度も訪問していたなんて。
香織も、時々その病院で見かけた女性=愛が俺の元カノだったなんて、知る由もなかった。

香織に強く誘われて行ったカラオケデートが俺と彼女の仲を親密にさせた。
彼女の声はうっとりするぐらいに美しい。イギリスに何とかいう太ったオバサン歌手がいたが、あの人に負けないぐらいの歌声だ。
その声を聞いた、ある女性が突然、俺たちの部屋に入って来て「その節はありがとうございました」と香織に礼を言うのには驚いた。去年、その女性の父親の葬儀の司会を香織が務め、良い余韻を残してお別れすることが出来たというのだ。
俺の経験から言って、女性から好かれる女に悪い女はいない。

それまで遠慮しがちだった香織はよく俺の部屋に来るようになった。これが料理を始め、家事全般が何でも出来るときたから、感動した。申し分がねぇ。確かに外見はもうひとつだが、香織となら理想的な家庭が築けるかも知れない。

……家庭?
そう思うと少し心配になって来た。おい、俺。お前のあの翼ぁ、どうした?

大騒ぎした政権交代は結局たいしたことがなかった。やっぱり、みっちり勉強して来た人間が必要だってことで今、秘書経験のある二世議員に追い風が吹き始めていた。中でも俺は若いことから期待されて、よく若い世代の支援者から陳情が来るようになった。

俺は大学を卒業してからMBAを取得するためにアメリカに渡り、そこで大島と出会った。あと……そう、島野だ。空回り型の情熱家だ。あいつは何とかって市民運動に参加していて、けっこう苦労しているらしい。あいつがホイットマンの詩を暗唱すると、やけにいい女にモテるものだから、俺もよく真似をした。
そんなことはいい。俺と大島は帰国後そろってウチのオヤジの政策ブレーンとして働いた。
これは俺の欲目なんかじゃなく、奴よりも俺の方が斬新な政策を立てていた。俺が議員になってからもそうだ。ところが、冷静に考えると最近はそうではない。
確かに議員になってからは少し腑抜けになっていたが、それは……大島に愛をあてがわれてからだ。
……。
待て……確か、デブ専だったよな?

あまりモテた経験のない香織はガードが甘い。互いに友人を誘って食事に行こうと言ったら喜んで連れて来た。
その、香織の英会話スクールの友達=片岡裕子(31)というのが……美人! 国際線のCA! しかも国外の有名人とも知り合いだという。来た! 来た来た来た来たぁー!!
こっちは大島を連れて行った。このデブ専は子豚を目の前にしたケダモノのような眼をギラギラとさせていやがる。予想通りすぐに香織にかぶりついた。
て、ことで、こちらも……いよいよスモール・ワールド、5人目かぁ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?