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エボニー・アイボリー

内容紹介
『エボニー・アイボリー』【シナリオ形式】

もし「超美白」の遺伝子を操作したら?

そんなストーリーをテラってみました!

エボニー・アイボリー

○ 夢

   イケメンの坂田浩二(二四)の顔。
   山根香織(二四)の声がする。

香織の声「浩二?」

浩二「サプライズ! 香織、奇麗だよ。その
 白い肌……まるで透き通るみたいだ」

香織の声「透き通るみたい? ……嬉しい…
 …浩二が……浩二が肌の白い子が好きだっ
 て言うから……実は私、自分の遺伝子を操
 作して貰ったの」

浩二「何だって!?」

香織の声「超美白の遺伝子。超美白の遺伝子
 のスイッチをオンにしたの」

浩二「サプライズ! そこまで俺の事を!」

香織の声「浩二!!」

   目を閉じた、浩二の顔が近づいて来る。

○ 暗い部屋

 ※ 以後、映像は全て香織の視界に入った、
   主観カメラで捉えたものとして描く。
   ト書きの()内は香織の動作を表す。
   その動作に応じて視界・主観カメラの
   捉え方も変わって来ることになる。

香織の声「ハッ!?」

   香織の声と同時に天井が視界に入る。
   (ベッドに横たわっていた香織が身体
   を起こす。)
   視界が天井から壁をつたって降りる。
   大きな鏡がその視界の隅に入って来る。
   (香織、大鏡の前まで歩いて行く。)
   大鏡が近づいて来る様に見える。
   大鏡に写ったもの……バスロープだけ
   が宙に浮かんでいる。

香織の声「え!? キャーッ!!」

○ 香織と由美の部屋・入り口

   山本由美(二四)の後姿が見える。
   由美、ドアを開け、部屋の中に入る。

○ 香織と由美の部屋

   由美、テレビの前に座る。

香織の声「由美ちゃん!」

   由美、驚いた表情で声の方を振り向く。
   由美、首を傾げる。少しして、テレビ
   のリモコンを手に取る。

香織の声「由美ちゃん! 私! 香織!」

   由美、驚いた表情で声の方を振り向く。

由美「か、香織? 何? どこ隠れてるの?」

香織の声「ここ! 目の前に居るの!」

由美「え!?」

香織の声「私、透明人間になったの!!」

由美「ええ!?」

香織の声「お、落ち着いて聞いて……ちょ、
 超美白の遺伝子が、ある研究所を発見して
 ……それを操作したら……治験ボランティ
 アっていうの? ……今月の家賃、まだだ
 ったじゃん? そ、そしたら、肌が白くな
 り過ぎちゃって……夢で浩二が透き通るみ
 たいだって……そしたら、透明人間になっ
 ちゃって……お金もくれるって!」

由美「あ、あんたこそ落ち着きなさいよ」

香織の声「わ、分かんない?」

由美「なんとなく分かった……あ、あんた、
 お金で身体売ったのね?」

香織の声「違うー! 由美!」

   テレビの上の写真(九歳の由美と香織
   と浩二)が目に入る。

      ×   ×   ×     

   由美の姿が目に入る。

由美「香織、元気出た?」

香織の声「う、うん……」

由美「でも、これでエボニー・アイボリーも
 解散だね」

香織の声「え?」

由美「ま、しゃーないか。売れない漫才コン
 ビのまま、終わっちゃったね」

香織の声「由美ちゃん……」

由美「名前は気に入ってたんだけどな。肌の
 白い私がアイボリーで黒い香織がエボニー
 ……二人はピアノの鍵盤みたい。でも……
 そっか。やっぱり香織、気にしてたんだ」

香織の声「ううん。そうじゃないの」

由美「超美白だっけ? 遺伝子操作までして」

香織の声「だから、そうじゃないの」

由美「ううん。いいの。ごめんね。でも……
 浩二みたいにメジャーにはなれなかったか
 ……浩二だけは別格だったのね……三人は
 幼馴染だった。ただそれだけ。でもいいか」

香織の声「由美ちゃん……」

由美「あんたも好きなんでしょ? 浩二の事」

香織の声「え!? ……由美も!?」

由美「また、浩二と三人で飲みにでも行こ」

香織の声「私……浩二に、会わせる顔がない」

由美「……透明だもんね」

○ テレビ画面

   アイボリー由美が一人、肌の黒い人形
   エボニーを手に腹話術漫談をしている。
   人形の声は香織の声そのもの。
   周りから笑い声があがる。ウケている。

由美「彼、(唇に人差指と中指を当てて)こ
 うするからさ、投げキッスかと思ったのよ」

人形「ほう。それで?」

由美「そしたら、煙草くれだって!」

人形「何だよそれ! やめさせてもらうわ!」

由美「ありがとうございました!」

   拍手が鳴り響く。

香織の声「(喜んで)ヤーッ!」

○ 香織と由美の部屋

   テレビに先のお笑い番組が映っている。
   (香織、由美の方を向く。)
   由美の満面の笑顔が見える。

香織の声「(嬉しそうに)腹話術であんなに
 はっきり喋るわけないじゃん! 分かんな
 い? 私! 私が横に居るのよ!」

由美「(笑い)」

香織の声「私、テレビ映りどう?」

由美「テレビより生で見る方が奇麗、って見
 えねェよ! この透明人間!」

由美・香織「(大笑い)」

由美「やっぱ、テレビ出てナンボ、だよね」

香織の声「そうだよね。由美、テレビに出る
 ようになってから奇麗になったもんね」

由美「そう!? そうかな? やっぱり?」

香織の声「奇麗て、お肌よね、基本よね」

由美「(凄く嬉しそうに)お肌? この透き
 通る様な? 浩二たらさ、最近……あ……」

   間。

香織の声「最近、何?」

由美「香織、あのね……」

香織の声「お肌なら私の方が透き通ってるん
 だけどね……て言うか、透き通り過ぎ!」

由美「香織……」

香織の声「最近、一寸、調子乗ってない? 
 自分一人で売れたと思ってる? ピン芸人
 て事になってるし?」

由美「思ってないわよ! ギャラも半分渡し
 てるじゃない!」

香織の声「お金なんかあってもしょうがない
 わよ! 透明人間はお洒落も出来ないのよ
 ! それで……浩二までゲットォ!?」

由美「まだ付き合ってるって訳じゃないわよ
 ! でもテレビ出てたら、会うじゃない!」

香織の声「私も会ってるわよ! でも気付か
 ない! 傍に居るのに!」

由美「どうしろって言うのよォ!!」

香織の声「私はどこ? 小山に帰った事にな
 ってるんだ(笑って)傑作ゥー」

   由美の険しい顔。

○ テレビ画面

   アイボリー由美が一人、肌の黒い人形
   エボニーを手に腹話術漫談をしている。

由美「今日はエボニーちゃんにもお化粧して
 あげましょうね。ね、エボニーちゃん」

   由美が空中で化粧品を塗る。
   するとその部分が、顔が宙に浮かんだ
   様になる。(そこに香織が居るのだ。)

香織「あ、由美!?」

   周りから大きなどよめきがあがる。

○ 香織と由美の部屋

   テレビの画面が消える。
   (香織、由美の方を向く。)
   リモコンを手に、由美が振り向く。

香織の声「由美、やってくれたわね」

由美「やったわよ。文句ある?」

香織の声「ありがとう!」

   由美と香織、ピンクレディーの『透明
   人間』の替え歌『透明芸人』のサビ部
   分を歌う。

由美・香織「(大笑い)」

由美「透明芸人エボニー大ブレーク! あえ
 てテレビに出ないで、ラジオとかネットと
 か、姿の見えない所で大人気! てか?」

香織の声「(笑い)うん。あの時はごめんね。
 怒ったりして」

由美「(立ち上がって)あんた、知ってる?」

   由美、小走りで別室に行く。
   (香織、由美を視線で追う。)
   由美、間もなくノートパソコンを手に
   小走りで戻って来る。

由美「今やブログの女王だよ」

  由美、ノートパソコンを開いて見せる。

香織の声「え!? ウソウソ!?」

   パソコン画面から「エボニー死亡説」
   という文字が飛び込んで来る。

香織の声「え!? 何!? これ!?」

   由美が画面を覗き込み、由美の後頭部
   が香織の視界を遮る。

由美「実はエボニーは実在せず、メディアが
 作り上げた、プロジェクト・エボニーだ?」

   (香織、由美を払い除ける。)
   由美、ドンという音と共に横に倒れる。

由美「あ!? ……もう……」

   パソコン画面が目に入る。

香織の声「ネットやブログでは誰かがなりす
 ましたヴァーチャル芸人……テレビでアイ
 ボリーが化粧をして見せたのはCG!?」

   由美、体勢を直し、脇からパソコン画
   面を覗く。

由美「嘘で固められたインチキ芸人を葬るた
 め、有志でエボニーの葬式を行う?」

   (香織、パソコンを持ち上げ、壁に投
   げつける。)
   パソコンが宙に浮き、飛んで壁にぶつ
   かって、落ちる。

由美「あー! バカ、香織!」

香織の声「(泣き声になって)冗談じゃない
 ! 私は生きてる! 生きてるんだから!」
   由美の悲しい顔。

香織の声「涙だって……涙だって透明なんだ
 ……涙も透明でも、私は実在するんだよ!」

由美「香織……」

香織の声「見えないって存在しないって事?
 心は? 心は見えなくても存在するわよ!」

由美「そうだね……そうだよね」

   インターホンが鳴る。

由美「あ!?」

香織の声「うん? 誰?」

由美「浩二……香織大ブレークのお祝い。サ
 プライズで来るって言ってた」

香織の声「ウソ!?」

由美「帰って貰おうか」

香織の声「大スター追い帰すの? 逆サプラ
 イズだよ」

      ×   ×   ×     

   浩二の複雑な表情。
   壊れたノートパソコンを見ている。
   (香織、浩二を真直ぐに見れず、視線
   が定まらない。)

由美「と言う事だったの」

浩二「サ、サプライズ!」

   テレビの上の写真(九歳の時の三人)。
   長い間。

香織の声「もう、私……元に戻りたい」

由美「元にって、戻ったら、芸人は出来ない
 わよ。透明になったから目立ったのよ。見
 えるようになったら消えちゃうよ」

香織の声「それでもいい」

由美「でも、超美白の遺伝子を操作した研究
 所、夜逃げしたんでしょ?」

香織の声「調べたの。遺伝子って、スイッチ
 がオンになったりオフになったりするの。
 外的刺激や、感情の変化なんかでスイッチ
 がオンになったりオフになったりする事も
 あるらしいの」

由美「ウソ!? 本当なの、それ!?」

浩二「サプライズ!」

香織の声「でも、別の遺伝子のスイッチがオ
 ンになって……死んじゃったりして」

由美「香織の感情が動く事って、何なの?」

香織の声「そりゃ、やっぱり……」

由美「やっぱり?」

香織の声「浩二のキスかな……」

浩二「サプライズ!」

由美「イヤ! そんなのイヤ!」

香織の声「私……元に戻りたい」

由美「(おろおろして)でも……そんな……」
   浩二、黙って微笑む。

由美「……仕方ないわね。……でも、香織、
 どうやってキスするの? あんた、肉体が
 ないのよ」

香織の声「そう……」

   間。
由美「よし! ……じゃ、香織、私に重なり
 なさい! 私の身体、貸したげる!」

香織の声「え?」

由美「ほら、何かの映画で……あれよ。香織
 が私に重なって、浩二が私とキスするの」

香織の声「い、イヤ! 何よそれ!」
由美「重なるんだから、あんたがキスするの
 と同じじゃない!」

香織の声「違う! 由美が浩二とキスしたい
 だけじゃん!」

由美「香織、元に戻りたいんでしょ!?」

香織の声「そうよ! もうイヤよこんなの!」

由美「じゃ、やってみようよ! 動かしてみ
 ようよ! 私達、一心同体だったじゃない
 !? だからうまくいくわよ! そうでしょ
 !? ね!? 戻りたいんでしょ!? ね!?」

香織の声「……うん。分かった」

   由美、立ち上がり、浩二と向き合う。
   香織には背を向けた形になる。
   (香織、由美に重なる。)
   由美の姿が香織の視界から消え、浩二
   の姿が目に入り、近づいて来る。
   (香織、目を閉じる。)
   暫く、光が消える。
   (香織、目を開ける。)
   浩二と由美の驚いた表情が目に入る。

浩二「サプライズ!」

由美「香織! 元に戻ったわよ!」

香織の声「(喜んで)え!? 本当!?」

由美「でも、あんた! 裸!!」

香織の声「え!? キャーッ!!」

         ― 終わり ―

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