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天国の少子化問題

内容紹介
もし「天国に生まれる」人が減少したら? 

『天国の少子化問題』【シナリオ形式】(400字×12枚)

トリプル・リアルタイム・リンク・シナリオとでもいうのでしょうか。第1話~第3話がからんでいる、オムニバス。

【第0話】
○ 天国

   天使Aと天使Bが議論している。

N 「今、天国では少子化問題が深刻だった。
 地上から人が『天国に生れて来ない』のだ」

天使A「ホンマに大丈夫かい、あんなんで!?
 これ以上、天国に生れるモンが減ってみ!?
 天国の存続にかかわるんやで!?」

天使B「何とかしよるわい! 失敗したら地
 獄行きやで。あいつらかて必死や!」

N 「その分、逆に地獄は大発展をしていた」

天使A「普通やったらあんな奴ら、天国に生
 れてなかったんや! なんぼ最近、天国に
 生れて来るモンが減ったからて――」

天使B「知らんがな! 俺に言うな、ゴッド
 に言え! ゴッドが基準下げはったんや!」

天使A「何で大阪行かすねん!? 最近、大阪
 から天国に何人、生れて来た思うてんや!?」

天使B「せやからゴッドはそこに手ぇ入れる、
 言うてはるんやろ!」

天使A「それであの6人か!?」

天使B「文句あるんやったらお前、子供作れ」

天使A「アホ。出来るか――けど、何で天国
 では――アレが付いてへんのかなぁ」

天使B「あんなモン付いてるから地上はやや
 こしいこと多いねんやんけ」

天使A「なかでもややこしい大阪にあんな6
 人、行かすんやで?」

天使B「お前が行くか?」

天使A「それは一寸――」

天使B「誰も行きたがれへんやんけ! そや
 から天国から大阪に生れるモンも減ってる
 んや! それで地上の大阪も少子化してる
 んやないか! 悪循環や! それで大阪か
 ら天国に生まれる人、増やしに行かすんや
 んけ! あっこから!」

天使A「あっこなぁ。まさか思えへんよな。
 あれが――ホンマに天に通じてるやなんて」

○ そびえ立つ通天閣・タイトル

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【第2話】

○ 走行中の大阪環状線内回り

   奥(53)と吉田(23)が隣り合って座
   っている。車内は空いている。

N 「この2人は教育改革――のはずだった」

吉田「奥先生、天国戻ったらどうします?」

奥 「ボーッとする」

吉田「充分ボーッとしましたがな。睨まれて
 たで、他の連中に。何もせん奴らやて」

奥 「失敗したら地獄行かされるんやで? 
 それやったらじっとして、誰か他が失敗す
 るんを待った方が安全やないか。それに少
 子化なんかワシらのせい違うがな。あのセ
 クハラ親父に任せといたらええねん」

吉田「ええ仕事しまっせ(笑い)あのオッサ
 ン一人かわいそうやけど、お陰で助かった」

奥 「ゴッドが地上で公務員やれ言わはった
 んや。ゆっくりしぃや、いう意味やがな」

吉田「公務員て、教師やで。ゴッド、熱血先
 生の教育改革、期待してはったのに」

奥 「そらテレビの見過ぎや。吉田、お前も
 家に10台もテレビ置いて、よう見れるな」

吉田「聖徳太子みたいやろ?」

奥 「今の教科書、厩戸王て書いたぁるやろ」

吉田「え!? ホンマ!?」

奥 「お前、ホンマに教師か? 何もせんで
 ええとは言うたけど、何もせん過ぎやで」
   そう言いながらも、奥はドアそばの黒
   服を着た女が気になっている。口元を
   抑え、何やら携帯電話で話をしている。

奥 「あれ。あのドアんとこ」

吉田「何や、あの女ばっかり見て。嫌々。セ
 クハラ教師なんか。勘弁してや、それで俺
 らも地獄行きやなんて。俺には何もするな
 言うといて、自分は女のケツ追いかけてた
 んか? 何もせんのも楽ちゃうかってんで」

奥 「お前は何もせん過ぎや」

吉田「何やて!?」

奥 「お前、あの女、どっかで見覚えないか
 ? 何やったかなぁ。日教組の集会かな?」

吉田「アンタ、そんなん行ってませんやん!」

奥 「虐待問題の研修会やったかなぁ?」

吉田「それ、俺が代わりに行きましたやん!」

奥 「進学説明会か?」

吉田「それも俺が行かされたんや!」

奥 「そうやったか? 何か覚えがあるで?」

吉田「レポート読んで知ってるんや、俺が書
 いた! 仮病のアンタの代りに! よう考
 えたら俺一人、仕事しとったんちゃうか?
 何が何もせん過ぎや! ええ加減にせえ!」

奥 「うーん。思い出せへんな――」

吉田「覚えるようなこともしてへんがな」

奥 「いや。何か――嫌な予感がするんや」

吉田「予感? 大丈夫や、大人しくしてたら。
 せこいアンタの作戦は一応成功や。もう、
 通天閣は近いんやから。新今宮からすぐや」

奥 「アレ、ホンマ言うたら、最初に仕掛け
 たんはワシやからな。あいつら利用して」

吉田「アレ? ――大丈夫や。そんな深刻な
 顔せんと。駅着いたら軽く飲むか? 天国
 戻ったら何もないし。争い事も無くてのん
 びり出来てええけど、刺激が無いからなぁ」

奥 「当り前や。みんな休みに来てはんねん。
 天国も地上も一緒やったらアカンやろ。そ
 れに言うとくけど、お前も油断できへんね
 んで。あれホンマはご法度やからな。なん
 ぼ姿変ってるいうてもマズイで、バレたら。
 生前の娘と会うてたやろ。あの天然の子」

吉田「天然、言うな。劇団やってんねん。あ
 れは演じてんねん。芝居や」

奥 「いや。あっこまでのボケは養殖できん」

吉田「見たんか!? 娘の舞台、見たんか!?」

奥 「芝居なんか見れるかいな。あの子、出
 てないやないか」

吉田「舞台やちゅうてんねん! 大道具や!」

   奥の携帯電話が鳴る。

奥 「(電話に出て)何や? 今忙しいのに」

電話(生瀬)「ほんまかいな、それ」

奥 「どういう意味や。熱血先生つかまえて」

電話「(大笑い)それ聞いたら、ゴッドも笑
 わはるわ。冗談はやめて、一緒に地獄行け
 へんか?」

奥 「は!?」

電話「スカウトしてんねんや。アンタら充分
 地獄行くだけの値打ちあるで。実は俺ら、
 そのために送り込まれたんや。他の奴も連
 れて行って、地獄発展させたら、特別待遇
 で迎えてくれるんや。どうや?」

奥 「何やて? お前らがスパイなー。根性
 やのぉー」

電話「可哀想になーセクハラ親父。ウチが仕
 掛けた女に引っかかって。けど、それやら
 したん、アンタらやで」

奥 「――そうやったかなぁ」

電話「ウチが乗せられた思て喜んでたやろ?
 甘いなぁー。そっちが何考えてたか全部お
 見通しなんやで。なんせこっちは、ずっと
 そっちのこと、監視してるんやからな」

奥 「監視?」

電話「どうせやったら地獄で天国の様な暮ら
 し、満喫した方がええんちゃうか?」

   電話が切れる。
   奥、チラッと黒服の女を見る。
   まだ何やら電話でヒソヒソ話している。

吉田「何ですのん? 今頃」

奥 「アホマネージャーや。自分で地獄のス
 パイやて言うとった」

吉田「地獄のスパイ!? あいつらが!?」

奥 「地獄の方が待遇がええから一緒に来い
 て。先に仕掛けたんはワシやて因縁つけて
 来よった。ワシらのこと監視してるんやと」

吉田「何やて!? ひょっとして、あの女!?」

   その瞬間、黒服の女は駆け足で電車を
   降りる。と、すぐにドアが閉まり、環
   状線はまた発車する。

吉田「それ、ゴッドに報告する気なんやろ?
 もし黒幕やと思われたら今までの苦労――」

奥 「お前が何、苦労してん?」

吉田「さっき言うたでしょ! アンタよりず
 っと仕事してましたよ! ああ! どうし
 よ? ああ! 何かええ方法――」

奥 「何も考えるな。ヘタに動くなよ」

吉田「冗談やないで、地獄行きやなんて――
 そや。あいつら、使うか? あいつら、完
 全に犯人にしてしもうたら――」

   吉田、慌てて携帯で電話を架ける。

電話(富水)「はい!?」

吉田「もしもし」

電話「何や吉田先生かいな」

吉田「先生やない。今、不安な気分やろうけ
 ど、よう聞いて欲しい――俺は使徒や! 
 真の使徒やったんや!」

電話「何!? 吉田先生が真の使徒やて!?」

吉田「今まで隠してたけど、俺はゴッドの真
 意を知ってる――ゴッドは誰も地獄に行か
 せたないて思てはるんや」

電話「何やて!? ホンマかそれ!?」

吉田「俺ら、別に何もせんと、さぼってたん
 とちゃうんや。全部見てた。全部既にゴッ
 ドに報告済みや。それで一度仕切り直すた
 めに呼び戻されたんや。せやから戻ったら
 失敗もみな正直に話そう。ええな?」

電話「お前があの真の使徒やて?」

吉田「そうや」

電話「――ゴッド、会うたことあるんか?」

吉田「ああ。何度もな」

電話「失敗に厳しいんとちゃうんか? しか
 も、よりによって女性スキャンダルやで?」

吉田「いや。でも嘘には厳しいで」

電話「――よし。そうしよう」

吉田「よし」

   電話が切れる。

奥 「何や、その真の使徒って? 使徒に真
 とか嘘とかあるんか?」

吉田「さあ? 使途不明」

奥 「しょーもないこと言うな」

吉田「何でもええから何か仕掛けて――ほん
 だら、アホが何かボロ出すかも知れへんや
 ろ? そしたら、あいつらのせいにして、
 俺らは助かる」

奥 「アホやのぉ。最後にいらんことしてく
 れたで。天然は親譲りか」

吉田「他にどないすんねん! 俺、天国で蘇
 生して、また早よ地上に、来世は娘の子供
 で生れたいんや! それが俺の将来の――
 来世の夢なんや!」

奥 「――そうか。可愛いな、あの子。劇団
 で何やってんねんて訊いたら『舞台の大道
 具作ったり、衣装作ったり、チラシ配った
 りしてんねん』て。何や裏ばっかりか? 
 表に出ぇへんのか? て言うたら『表も出
 てんで』て。表で何やってんねん? て訊
 いたら『表で切符売ってんねん』やて」

吉田「――今に大女優になるわい。俺がこっ
 そり演技指導したったんやから。10台のテ
 レビでドラマ見まくって研究したんや。地
 上で何もせんと、じっとなんかしてられる
 かい。地上には何かする為に生れるんや」

奥 「そうか。ほんだら来世は大女優の子供
 で生れるんか。ほんで、前世のワシみたい
 になるんやな?」

吉田「え? アンタ前世、大女優の子供?」

奥 「そやで。波乱の人生やったで」

吉田「アンタも俳優やったんか?」

奥 「ワシはミュージシャンや。結構なもん
 やったんやで。ワールドツアーも回ったし」

吉田「ワールドツアー!?」

奥 「地元・大阪は天王寺を皮切りにな」

吉田「天王寺からスタート!?」

奥 「おう。次は新今宮や」

吉田「し、新今宮?」

奥 「新今宮、弁天町、西九条から大阪方面」

吉田「環状線の駅回ってるだけやないか! 
 それのどこがワールドツアーやねん!」

奥 「ワシのワールドツアーは地道なんや。
 ストーンズとか大雑把な奴らとは違うんや」

吉田「せこ! そんなせこいワールドツアー、
 どこの世界にあんねん!」

奥 「そこや。新世界や!」

   窓の外に見える――そびえ立つ通天閣。


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