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愛とSIX

内容紹介
もし絶対に運命の人と出会えるとしたら? 

>「知り合いの知り合いの知り合い……」で、世界中の人は皆6人目までにつながってるって、知ってた?
「スモール・ワールド」とかっていうらしいの。

っていうことは……知り合いの知り合いの知り合いって辿って行ったら……私の「運命の人」ともつながっているはずよね?

絶対に浮気しない、私の「運命の人」って、世界のどこにいるのか分からないけど。
それも6人目までに!!
それなら、辿って行ってみよう、って感じよ!<

愛とSIX

DESTINY-1 スモール・ワールド

Ch3 榊原

これは浮気なんかじゃないわ。ただ、その……新しい元カレ? ほら、病院の診察券、シャッフルしてた彼って、仕事中毒とアルコール中毒の合併症なんだし。仕方ないよね?
それに、知り合いの知り合いってことは、スモール・ワールド・ネットワークで、また一歩「運命の人」に近づいたってこと……ううん。きっと彼がその「運命の人」なのよ!

お乗換えした、私の新しいカレ=榊原先生の病院は個人病院でありながら、最新の設備が整っている。病状を客観的に分析するには、経験と勘よりもデータ重視なんだって。カレの行動には全て理論と根拠があるの。私との愛も根拠があるのかしら? 根拠のある愛……それこそそれこそ、まさしく「運命の人」って感じよ!

私は鉄道員で、社会人ソフトボールチームの選手だから、普通のOLのように土日にはあまりデートすることは出来ないけど、球場に向うお客さんの笑顔を乗せて電車を走らせる時は私までワクワクして楽しい。特に子供たちの声が聞えて来ると嬉しくなってしまう。この仕事をしていて一番幸せな瞬間だ。

日曜日、カレは休みなんだけど、優秀なお医者様はデータ分析に忙しいらしくて、会うのはいつも平日と決まっている。でもいいの。
私はアルコールの匂いが清潔感を漂わせているって感じがする、カレの診察室が好きで、何度もカレの仕事場に足を運んだわ。
私が行くと、時々そこにはカレの友達=中村健一(42)さんが来ていた。年は離れてるけど、いつもにこやかなその人が時折見せる厳しい表情に、私は一瞬ドキッとした。
ひょっとしたら彼が……いかんいかん。先を急いでどうする? どうも早く6人目に辿り着かないといけないと勘違いしている。今のカレがベストなのだ。今のところ。
カレは全てのことには根拠があると言う。今のカレ(榊原)に辿り着くには、前のカレ(池内)と付き合う必要があった。しかし「前のカレ」になってしまったのは「運命の人」じゃなかったからだ。何と見事な分析だろう。今のカレの理論と根拠に基づく考え方が私を変えたのだわ。ああ、私。カレの色に染まって行く……。

「何それ? 類は友を呼ぶってやつじゃねぇの?」
美咲は久しぶりに私の部屋に来たかと思うと、時々イヤなことを言う。
美咲によれば、私はもともと分析好きで、何でも疑って見る癖があるらしい。それを男はウザイと思うのだという。
疑って見る癖は浮気されることが多いからだと思うのだが、どうも子供の時からそうだったらしい。ということは、やはり「浮気される」は遺伝子のせいなのか?

飾っているソフトボール少女コンビの写真を見て、美咲は「キモ~イ。まだこんなの飾ってんのかよ」と悪態をつく。西東京選抜チームで関東大会優勝の時の記念写真だ。これでも平成のKKコンビと言われていたくらいなのだ。
私、はっきり言って、名捕手。私の部屋にはソフトボールや野球に関する本がズラリと並んでいる。いつライオンズから監督のオファーがあってもいいように準備しているのだ。
最近は女子プロ野球リーグが出来たり、ナックル姫がアメリカの独立リーグに行ったりするような時代になった。私もあと5歳若ければ、そうなってたかも知れない。だけど私は今はこれでいい。でも、うんと勉強して、いつか私は日本人初の女性メジャーリーグ監督になるのだ!!

お酒を飲みに行っても、今度のカレ(榊原)は前のカレ(池内)のようにたくさんは飲まない。さすがお医者様。その辺は安心していられる。めったに病気はしないみたいだけど、時々スリ傷を見かける。インテリがどんくさいのは仕方がないわよね。

だけど、酔っ払いにからまれた時は、ちょっと男らしいところを見せて欲しいなと思っちゃった。そしたらカレ……ムチャクチャ強い!
わざと一発殴らせてから「正当防衛だ」って、ボコッちゃった。もう、びっくり!

ある日、美咲と久しぶりにスペイン坂のあたりを歩いていると、派手に暴れている男がいた。見ると……私のカレではないか!?
私は慌てて駆け寄った。カレを止めてくれたのは彼と一緒にいた中村さんだった。これも正当防衛だと言うが、相手は命からがら逃げ出したという感じだった。
カレはデータの分析に失敗すると、時々こうなることがあるという。
データの分析? この時、初めてカレを怖いと思った。
もう浮気男とアル中男と暴力男だけはゴメンだ。そう言えば母も暴力男に泣かされてたっけ。「浮気される遺伝子」以外に「アル中男とつき合う遺伝子」とか「暴力男とつき合う遺伝子」てのもあるのか?

帰りの電車の中、カレを落ち着かせ、連れて帰る中村さんの紳士ぶりを思い出していた。
すると、いつも私が仕事でするのと同じアナウンスが聞えて来た。
「~へお越しの方はお乗換えです!」


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