見出し画像

愛とSIX

内容紹介
もし絶対に運命の人と出会えるとしたら? 

>「知り合いの知り合いの知り合い……」で、世界中の人は皆6人目までにつながってるって、知ってた?
「スモール・ワールド」とかっていうらしいの。

っていうことは……知り合いの知り合いの知り合いって辿って行ったら……私の「運命の人」ともつながっているはずよね?

絶対に浮気しない、私の「運命の人」って、世界のどこにいるのか分からないけど。
それも6人目までに!!
それなら、辿って行ってみよう、って感じよ!<

愛とSIX

DESTINY-4 そして、「運命の人」

Ch12 愛、「運命の人」とSIX

喫茶店で、愛は裕子に心の奥底にたまっているものを吐き出していた。
自分は臆病で疑り深い性格だ。
自分ではソフトボールも恋愛も積極的で勇敢に立ち向かって来たと思っていたのだが、本当は何もかもが中途半端で、結果、愚痴ばかり言っている。原因を自分に求めず、人のせいにばかりしている。
ソフトボールについても本を読み、並べるだけで、思い切って挑戦することも出来ず、いざ勝負となると臆病になる。
「根拠にこだわる」のも実は自信がないからだ。それがなければ乗っかれないのだ。
信じて身を任せ、流れに乗ってみることも大切なのに。
ぜんぶ美咲の言う通りだ。
本当は美咲のことも桑野のことも上から目線で見下していた。ところが、彼らの方が自分よりずっと強い。自分の方が劣っている。

愛の気持ちが落ち着いた頃、裕子は頼まれていた伝言を伝えた。
「美咲ね、ソフトボールの選手、引退するって」
「え?」
「それで、監督になるんだって。愛を敵に回して戦いたいって」
「……」
「凄いよね、美咲。美咲には愛のことが……そういう『運命の人』なんだって」
「……」
「運命は自分で決めるって」
「!」

街頭演説を終えた桑野の前に、凛とした愛が現れる。
「ね、お願い。7人目、紹介して!」

空港に独りいる愛。MBA関連の本に目を通している。
機上の人となる愛……。

――― 2030年 ―――

オリンピックの正式種目として復活した女子ソフトボールの日本代表監督に美咲(51)が就任した。

その同じ頃、一人の女性が記者会見を開いていた。
初の日本人女性メジャーリーグ監督が誕生したのだ!
MBAを取得した彼女の野球はただセイバーメトリクス(アスレチックスらが導入している、徹底的に科学分析した野球理論)など野球理論のみならず、組織経営にもおよび、どのような弱小チームをも常勝軍団に育て上げた、偉大な監督……。
「北村 愛!」
「私が貴女の運命の人です!」
「ちょっと、運命って悪戯し過ぎだけど、私が彼女から……北村愛さんからちょうど6人目です! 代々育ててくれた最初の人に感謝したい!」

愛がアメリカに渡って20年……。愛が果たし得なかった夢を、愛が育てた後輩の女性が、またその後輩の女性が、またその後輩の女性が……遂に6人目でこの女性が初の日本人女性メジャーリーグ監督になったのだ。
誰もが本当にそんなことが出来るとは思わなかった。
しかし、そんな時に、愛からずっと受け継がれて来たこのホイットマンの詩が、臆病な自分に勇気を奮い立たせてくれた。
だから、自分とつながる世界中の人たちにもこの言葉を伝えたい。
と、その女性は暗唱し始めた。

“ところで君は君自身をどんなふうに思ってきた、
それでは自分を劣っていると思ったのは君なのか、
大統領が君よりえらいと思ったのは君なのか、
あるいは金持のほうが君より裕福で、教育のあるほうが君より賢いと思ったのは君なのか”
(『草の葉【中】仕事を賛える歌』ホイットマン作/酒本雅之訳 岩波書店1998年2月16日 第1刷発行)

“わたしが手を変え品を変え君に悟らせようとしているのは、男も女も神と同じだということ以外の何だと君は思うのか、
いっそ神だとて「君自身」以上に神聖ではないということ以外の”
(『草の葉【下】創造のための法則』ホイットマン作/酒本雅之訳 岩波書店1998年3月16日 第1刷発行)

FIN


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?