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愛とSIX

内容紹介
もし絶対に運命の人と出会えるとしたら? 

>「知り合いの知り合いの知り合い……」で、世界中の人は皆6人目までにつながってるって、知ってた?
「スモール・ワールド」とかっていうらしいの。

っていうことは……知り合いの知り合いの知り合いって辿って行ったら……私の「運命の人」ともつながっているはずよね?

絶対に浮気しない、私の「運命の人」って、世界のどこにいるのか分からないけど。
それも6人目までに!!
それなら、辿って行ってみよう、って感じよ!<

愛とSIX

DESTINY-4 そして、「運命の人」

Ch10 やっぱり捨てられるの?

政治討論番組に出演している桑野。
希望の持てない日本社会。子供たちが生れて来ることを拒否し、毎年3万人を越える自殺者が生れる国。
この国では、将来を担うべき若者たちが保守的になり、安定を志向し、冒険をしようとしない。その方が無難かも知れないが、それでは発展は見込めない。
チャレンジ精神のない彼らは若さを無駄にしているとも言えるかも知れない。しかし、一方的に彼らを責めることは出来ない。
なぜなら、痛みが伴うよりは、自分たちの住み慣れた世界の現状維持のために、未来を担保に入れ、いずれこの土地が痩せて行くことを知りつつも、当面の収穫を得るための焼き畑農業を続けて来たのは、先輩たちだからだ。
しかし、そんな政治は変らなくてはならない。変えなければならないのだ。
そのためにも若い人たちに期待しよう。彼らの意見をもっと取り入れ、反映させて、希望ある未来を創造したい。
若い人たちが大いに政治に参加し、ともどもに希望ある未来を創造する仕組みを作っていきたい。
若い人たちよ、立ち上がろう! 私も立ち上がります!

こう訴えた桑野は注目の人となった。桑野の人気にあやかろうと、若い二世議員たちが彼に急接近したのだ。

そんな桑野のもとに、愛が現れる。久しぶりのデートだ。
2人がつき合っていた頃、桑野はMBAを鼻にかけて、よくピーター・F・ドラッカーの思想を語った。それは愛にも興味深く、松下幸之助や本田宗一郎・藤沢武夫、井深大・盛田昭夫、稲盛和夫などの企業経営者やドラッカーの経営哲学を取り入れてソフトボール・野球チームを作ったらどんなに面白いかと思った。
その頃の桑野はホイットマンの詩を暗唱して聞かせるなど、ロマンチックなところがあって好きだったことを思い出した。
しかし、それでいて、あの頃はどこか軽薄な感じがしたが、今の桑野はどこか違う。

愛は思い切ってこう言った。
「やっぱりあなたが『運命の人』かも知れない。もう一度つき合ってもいいわよ……ううん。つき合って下さい! ……って感じ」
実はあれからスモール・ワールド・ネットワークの5人目→4人目→3人目とさかのぼって→2人目の桑野に戻ったことも明かした。

桑野は愛を見つめて言った。
「愛、運命てのは”時”を得たってことなんだよ。タイミングなんだ。俺と愛の『運命』の”時”は過ぎてしまったんだ」
ショックな言葉だ。
さらに追い討ちをかけなくてもいいのに、「だけど、ちょうどこの”時”にスモール・ワールドの1人目が現れたよ」と言う。
そこに大島が現れたのだ。
その1人目だった大島はその”時”を軽く流して、桑野を連れて帰ってしまう。
緊急のミーティングが行われることになったのだ。

ぽつり……愛はひとり、残される……。

リベンジをかけたソフトボールの試合のマウンドで、美咲は愛のサインに首を振り続けていた。
仕方なくタイムを取ってマウンドに駆け寄った愛に、美咲の怒りは爆発した。
「何でまた1球外すんだよ! そんな逃げ腰なリードばっかしやがって! 何が堅実だよ! いつも3ボール与えて、そんなだからオリンピックメンバーにも選ばれなかったんだよ! 監督が打力重視だったからじゃねぇよ! 名捕手のつもりか知んねぇけどよ、本気で勝負できねぇ、臆病なだけじゃねぇかよ!」
「何が運命だよ! やってみろよ、本気で! 何がいつか日本人初の女性メジャーリーグ監督になるだよ! いつだよ! やってみろよ、本気で!」
「何が運命だよ! 臆病なだけで、結局いつだって成行きまかせじゃねぇかよ! 何がスモール・ワールドだよ! ちっせえ! ちっせえ! ちっせえ!」
「何が運命だよ! 運てやつに命じてやれよ!」
美咲はマウンドを駆け降り、グランドの外に姿を消した。

ぽつり……愛はひとり、残される……。


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