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『焼畑が地域を豊かにする』が2022年JCAS社会連携賞を受賞

2022年JCAS(地域研究コンソーシアム)賞の受賞式が11月19日、岐阜女子大学にて開かれました。

研究賞や各賞を受賞されたみなさまのスピーチに続き、
焼畑が地域を豊かにする』が社会連携賞を受賞し、編者の京都先端科学大学の鈴木玲治先生があいさつをされました。

受賞されたみなさま、編著者のみなさま、おめでとうございます!

ありがたい機会をいただき、地域研究コンソーシアムの関係者のみなさまに心よりお礼を申し上げます。

JCAS様ウェブサイトより、講評と今年度の選考結果を転載させていただきます。

 焼畑はかつて熱帯林破壊の元凶とされたことがある。たしかに一時的な利益を求める焼畑は熱帯林の脅威だった。商品作物栽培のため大規模に森林が焼き払われた。一方で、古くから続けられている焼畑は、合理的で持続的なシステムであることも知られている。森林を繰り返し利用するため、作物栽培には制限が加えられ、さらに作物栽培後は森林再生を促すためのさまざまな工夫が凝らされている。その土地で暮らしてきた人々の知識と経験が集約されているのだ。
 このことを知る地域研究者が、日本で焼畑を実践し、各地の焼畑を行ってきた人とともに一冊の本にまとめた。それが『焼畑が地域を豊かにする』。タイトルに関係者の思いが込められている。研究者が焼畑を実践すること自体が意義深いが、社会連携賞授賞にあたって、とくに以下の二点を指摘しておきたい。
 まず、焼畑の実践が日本の地域社会に与える影響という点。日本では、焼畑は取り残された遅れた農業だと考えられている。しかし本書で示されているのは、むしろ焼畑の未来可能性である。焼畑の産物は、美味しくて栄養価が高く、ブランド品として注目されるようになっている。地域活性化に果たす役割は大きい。また先に述べたように焼畑には、森と山に関する知識・技術が集積されている。戦後、日本の焼畑地域の多くが優れた林業地になったのは、この「森林」についての在来知が活かされたからだ。さらになによりも農薬や化学肥料をほとんど使わない焼畑は、近代農業のあり方を再考するきっかけにもなる。
 二点目は、日本社会だけではなく、先進国と途上国という枠を超えて、今後の農業や自然資源利用に一石を投ずる可能性があるということ。これは本書に関わる地域研究者の多くが、東南アジアやアフリカの農村での研究経験・実績が豊富なことから期待したいことである。焼畑がそれぞれの地域のすぐれた「教科書」であり、そこから学べることは多いということを本書は実践を通して「楽しく」教えてくれる。その楽しさのなかに、地域研究が、それぞれの地域社会に寄り添いながら、時には地域の違いを超えた共通の課題を共に考える学問として発展することも予感させられたことも付け加えたい。

http://www.jcas.jp/jcas2022.html


第12回(2022年度)地域研究コンソーシアム賞【選考結果】
◆研究作品賞
五十嵐隆幸『大陸反攻と台湾-中華民国による統一の構想と挫折-』(名古屋大学出版会、2021年9月)
梅屋潔 The Gospel Sounds like the Witch’s Spell: Dealing with Misfortune among the Jopadhola of Eastern Uganda(Bamenda: Langaa, 2022)
◆登竜賞
岡野英之『西アフリカ・エボラ危機 2013-2016:最貧国シエラレオネの経験』(ナカニシヤ出版、2022年2月)
程永超『華夷変態の東アジア:近世日本・朝鮮・中国三国関係史の研究』(清文堂出版、2021年10月)
◆研究企画賞
酒井啓子「グローバル秩序の溶解と新しい危機を超えて:関係性中心の融合型人文社会科学の確立」 (シリーズ「グローバル関係学」全7巻 (岩波書店))
◆社会連携賞
鈴木玲治『焼畑が地域を豊かにする:火入れからはじめる地域づくり』(鈴木玲治・大石高典・増田和也・辻本侑生(編)、実生社、2022年3月)

【2022年度専門委員(敬称略・五十音順)】
<研究作品賞>
遠藤貢 (東京大学大学院総合文化研究科教授)
川島真 (東京大学大学院総合文化研究科教授)
清水麗 (麗澤大学外国語学部教授)
白石壮一郎 (弘前大学人文社会科学部准教授)
妹尾哲志(専修大学法学部教授)
森井裕一(東京大学大学院総合文化研究科教授)
<登竜賞>
川喜田敦子 (東京大学大学院総合文化研究科教授)
栗本英世 (人間文化研究機構理事)
武内進一 (東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授/アジア経済研究所上席主任調査研究員)
<研究企画賞・社会連携賞>
家田修 (早稲田大学社会科学部教授)
竹中千春 (立教大学大学院学法学研究科教授)
田中耕司(京都大学東南アジア地域研究研究所教授)

http://www.jcas.jp/about/awards.html

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