見出し画像

1998 ~ 2024         10

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

10
階段下から聞こえる声は聞いたこともないような言葉のようだった。
どんな風に階段を降りて黒ずくめの自分を差し出せるのかと考えた。
 
教会の一番後ろのベンチで誰も知らない、本当に一人で真っ黒に包まれていた。見たことも会ったこともない人たちが長いスピーチをしていた。あれだけ勉強したはずなのに全然わからない、何を言っているのか何が言いたいのか。最後に言葉を交わしたのはこの人たちじゃなくて私なのに、この人たちはもう3年も会っていなかったのに。でも確かに私は一人で一番後ろの席で真っ黒な中にいて全てが噓のようなだった。

何時間も私は下へ降りることができなかった。下から聞こえる声が少なくなった頃、私は壊死したようにカラカラで涙も出ない、手と足がちぐはぐに動く壊れる寸前の体を連れて下へ降りた。
背が高く大柄でメガネの中の大きな腫れあがった眼が真っ黒な私をみつけると
”やっと顔を見せくれた” と言って私を無条件に抱き寄せて長く抱きしめた。その長さと腫れあがった眼からこぼれ落ちる涙がそこにいた全員を黙らせて沈黙をつくった。
私の名前を練習するように枯れた声で何度も呼びながら真っ正面から私の顔を眺めて大きく微笑ながら赤いセーターの上にあったペンダントを外して私の黒いジャケットの上に移した。彼が彼の父親から贈られたこのペンダントを彼は一日も欠かさずに身に着けていた。彼の父親は奇跡のように戻ってきたこのペンダントを私に差し出してくれた。
本当に悲しい時には涙は出ないものだという人がいるが
私は崩れ落ちるように泣いた。
悲しみという感情は他の感情よりも240倍も長く続くらしい、そして私を強くした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?