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僕の好きなアジア映画58: なまず

『なまず』
2018年/韓国/原題:메기/88分
監督:イ・オクソプ(이옥섭)
出演:イ・ジュヨン(이주영)、ムン・ソリ(문소리)、ク・ギョファン(구교환)、チョン・ウヒ(천우희)

基本的には、全編を貫く明らかに「物語らしい」と言える物語はこの映画に存在しない。いくつかのエピソードが連なって描かれていて、ポップでいてかなりシュールではあるが、一つ一つのエピソードはそれとして了解可能である。しかし決して全体としてどこかに着地点を目指しているようには僕には思われなかった。要するにかなり変な映画と言って良いと思う(笑)。

主演は『梨泰院クラス』、『野球少女』、『ベイビー・ブローカー』などで主役から脇役まで個性的な役柄を演じることが多い、売れっ子のイ・ジュヨン。本作でもちょっとストレンジな看護師役をコミカルかつキュートに演じている。

イ・ジュヨン

彼女の恋人役には、ク・ギョファン。最近作の『モガディシュ 脱出までの14日間』をはじめ多くの映画に出演。さらに『D.P. -脱走兵追跡官-』などドラマにも進出し、個性的でキレのある演技で注目の男優である。彼はまた本作の監督イ・オクソプのパートナーとしても知られており、本作では製作・脚本・編集も務めている。

ク・ギョファン

さらに病院の婦長役には、韓国を代表する女優と言って過言ではないムン・ソリ。とにかく彼女はシリアスなものからコミカルなものまで、幅広くどんな役でもこなしてしまう大女優である。ホン・サンスやイ・チャンドンの映画をはじめ、数多くの作品で重要な役を担っていて、その演技力の高さには定評がある。

ムン・ソリとイ・ジュヨン

こういった非常に存在感の強い俳優陣が、韓国の映画としては極めて珍しいオフビートな感触のコメディー映画/恋愛群像劇を創り上げている。コミカルで緩いようでいて、しかし個々の現象を見ればかなり辛辣に、不安な日常を切り取っているのだ。

この映画は何が言いたいとか、テーマは何であるとかあまり考えずに、新たな才能たるイ・オクソプ監督の軽妙なタッチを、カラフルでポップな映像とともに、そのままの形で楽しめば良いのかな、と思います。全体として考えれば「難解」な映画の部類なのだと思いますが、なんか気楽に楽しめた映画なのです。

2019年大阪アジア映画祭グランプリ、第23回釜山国際映画祭4部門受賞、第44回ソウル独立映画祭観客賞


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