それはないよ、おかーさん

買ってきたプリンアラモードを母親の前に置いた午後4時。

小腹が空いてきた、というので、今日の午前の買い出しで買ってきたアラモードである。

「これ、おいしそう、食べたい」と、母に何度もくっきりと言われ、スーパーのデザートコーナーで買ったそのアラモードなのである。

スーパーレベルとは思えぬボリュウムとお値段であったが、人気の商品らしくレジに並んでいると、プリンアラモード入りのカゴを手にしている婦人を見かけ、ナイスチョイスの買い物としばし幸福感に浸る。

フルーツと生クリームがてんこ盛りのそのアラモードを母の目の前に置いた途端、

その表情が曇るのを素早く察知する。

案の定、予想通りのひとことが続いた。

「こんなしつこそうなの、食べられないよ」

しつこそう、は母がよく使う食べモノへの枕言葉である。

「あのー、さっき買ってきたんですけど」

「あのー、あなたが食べたいって言ったんですけど」

母、ふーんという表情を一瞬見せるものの、

「そんなこと言ってないよ」

と、ここもきっぱりくっきり言って、さっぱりした顔つきになっている。

「私がこんなに食べられるはずないでしょ」

「私はプリンより珈琲ゼリーが好きなんだから」

「○○が買ったんじゃないの」

と、そんなしつこそうなプリンは、スイーツ好きの兄のもの、みたいな顔をする。

出たな、母を操る妖魔め、と母の裏側に存しているらしき、ナニモノかの登場にやや静脈が太くなる。

静まれ、心臓、と唱えつつ

「でもさー、食べられるだけ、食べてみたら」とカップのフタをあけて、スプーンをプリンめがけて差し込むと、何とかおつきあいのひとさじを口に運ぶ母であった。

「ね、おいしいでしょ、意外に、だってマミーはみかんの缶詰好きじゃん」

マミーと言って、ちょっと洋風な空間を作り出してみる。

だが、結局1/3ほど、やっと食べて、兄がその残りを食べるといういつものパターンになった。

「あのね、だから言ってるでしょ、食べたいっていっても食べられないから」

「買わないほうがストレスたまらないよ」

と何度も兄に忠告されていたのに、何度も騙される妹なのであった。

残り物係の兄は美味しさの基準値が高いので、自分でも処理できず、みすみす廃棄処分にするスイーツや菓子パンもあるという。

少食の母が食べたいと言うと、つい買ってしまうという失態を何度も繰り返し、絶対もう買うまい、と決心して買い物に臨むのだが、

母の「絶対食べられるから」をなぜか信じてしまう。

「絶対だよね」

「絶対」

「絶対だよね」

「絶対食べるよ」

と、連呼しあうスーパー内の母娘、かなり、目立っているような気がする。

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