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中秋の月餅はバレンタイン商戦!?アジアの最新月餅事情をさぐる

もうすぐ中秋の名月。日本では月見といえば団子ですが、中華圏では圧倒的に月餅(げっぺい)が食されます。
食されるというよりも、贈りあうその文化の方こそが特徴的で、各社揃って月餅を売り出し、この時期はどこに行っても月餅月餅。街がにわかに活気づきます。中秋は新正月に次ぐ一大イベントで、ビジネスチャンスと捉える人もいるのです。

ところでカバー写真、これも月餅なんですよ。香港の方に教わりながら、初めて作ったのですが、こんなにカラフルでかわいくなっているんだ!と私は衝撃を受けました。

🥮そもそもなぜ中秋を祝う?

中秋の起こりについて書こうと思ったのですが、長大になりそうで挫折。日本における中秋については、こちらのインタビュー記事がとてもわかりやすかったです。

私が強調したいのは、元々の中華圏において「中秋 = 月見」ではないという点です。
たしかに月の満ち欠けと関連した行事ではあるのですが、月を"鑑賞する"ことに目的があるわけではなく、人々の意識としては、
①満月は円満を意味して縁起がいい
②ちょうど収穫を祝う時期
の二点があげられます。ただし後に述べるように、あまりに大きなイベントということもあり、中華圏の人々と話していると「なぜ」ということは特に意識せず、「とにかく月餅を贈り合う時期だね!!」というのが圧倒的に強いように思います。

🥮月餅はお中元?バレンタイン?

日本では中秋といえば月見団子だけれども、月餅と月見団子の決定的な違いは「贈り合う」文化があるかどうかだと思います。
中華圏では8月頃からデパートに月餅特設売場ができ、有名ホテルや百貨店のみならず食品企業や飲料メーカーまで競って新作月餅を売り出し、人々はこぞって買い求めます。人気のものは予約必須だとか。まるでバレンタインのようです。
しかし贈る相手は好きな人💏ではなくて、お世話になった方やビジネスの取引先👔。個人間で贈り合うこともあるものの、法人需要がかなりの割合を占めるのだそうです。そう言われると、やたら高単価なのも納得。日本のお中元文化のようです(ちなみに中華圏ではお中元を贈り合う文化は一般的でない)。

家族に閉じたイベントではなく、他人と贈り合う文化があること、そしてそこにビジネス💰(贈る者のビジネスリレーション、およびメーカーの商機)が絡んでいることが、中秋が現代社会でも衰えることなく活気付いている理由なのかなと思います。

🥮月餅文化は東アジアに広く分布

ところで、中秋というと中国のイメージが強いですが、中華圏の文化なので、香港・台湾・ベトナム・シンガポール・マレーシアなどの国々でも祝います。国や地域によって様々なバリエーションの月餅があります。

🥮月餅の地域性

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月餅といってイメージするのは、「広式月餅」という広州起源のものが多いはず。皮が薄くて餡ずっしり、工芸的な細工が凝らされていているのが特徴です。その他に、蘇州発祥の蘇式月餅や北京の京式月餅、それに台湾月餅などなどもあります。

主なものについてはこちらをご覧ください。

🥮月餅の餡のバリエーション

中身の餡についても多様で、五種類の木の実が入った「五仁月餅」が王道とされ、こしあん棗、蓮の実といった甘いものから、肉月餅やチャーシューの入った甘くない餡も定番です。甘いのも甘くないのも塩漬けアヒル卵が入ることが多いようですが、これについては好き嫌いがあるそうで、最近は入らないものも多いのだとか。

🥮最近の月餅事情

月餅を食べたことのある人は、「重い、甘い、大きい」というイメージを少なからずお持ちなのではないでしょうか。
事情は現地でも同じで、伝統的な月餅は若者に敬遠されがちなのだそう。そこで、ニューフェイスな月餅も次々出てきています。本当に様々な動きがあるので、以下箇条書きで最近のトレンドを挙げてみます。情報源は、現地の知人及びネットリサーチなので、確認はしていますが、間違いや「これもあるよ!」というものがあれば教えてください🙏

🌕 中身の餡は、抹茶、アイス、カスタード、ベリー系などフルーツ入りも新しいものが続々
🌕 雪見だいふく皮に包まれた生菓子のような「冰皮月餅(生月餅)」が広まっている。ヘルシーでカラフルでかわいいこともあり、ニューフェイス月餅の中ではもうほぼ定番化。英語ではSnow skinといいます。
🌕 とにかくスタバのが人気!高いけれど大人気。餡はチーズクランベリー、抹茶玄米、南米風コーヒーヘーゼルナッツなど(★参考記事
🌕 ゴディバ、ミスド、ハーゲンダッツ、ペニンシュラ...思いつく限りのあらゆる食企業が毎年こぞって新作月餅を発表(★参考記事
🌕 ベトナムではミニ月餅、3D月餅が人気に(★参考記事
🌕 中国では2020年タニシ麺月餅が話題になった。ラー油をつけて食べるものなどなども。もはや肉まんでは?(★参考記事
🌕 香港では、クッキー生地にカスタード餡を包んだものが近年トレンド。シャングリラホテルが売り出したものを真似して広がったらしい(香港人談)
🌕 かつては200g超えの大きなものを切り分けて家族で食べるものだったけれど、最近は50gサイズのものが増えてきた
🌕 ヘルシー、低糖を謳ったものも好まれている
🌕 皮にラードを使うのが昔からの作り方だけれど、最近は敬遠されてバターに置き換わっているものがほとんど(香港人談)
🌕 贈り合いすぎて最終的に食べきれず余ることが多いので、月餅回収箱が設置され、養老院や困窮家庭に寄付されることもある(★参考記事
🌕 コロナでロックダウン、暇だったのではじめて月餅作ったよ(ベトナム人談)

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🥮その他月餅に関する小ネタ

🌕 中国産月餅の輸入を禁止している国は少なくない。ドイツ、フランス、タイ、シンガポールなど。その理由は、卵や肉類が入っているため口蹄疫や鳥インフルエンザ等の感染源となるから。同様に中国も外国からの卵や肉類を含む月餅の持ち込みを禁止している。月餅の個人輸入は注意!(★参考記事
🌕 月餅の皮の黄金色は、転化糖とかんすいによって生まれます。それゆえ意外と転化糖が肝心で、熟成させるためにひと月以上前に仕込むそう。
🌕 1つ300円から1000円近くするものもあって結構高いと思うのだけれど、香港・中国・ベトナムの人に聞いたところ、手間がかかるし年に一度なので「そういうもの」らしい。
🌕 ベトナムでは街に月餅屋台が並ぶという
🌕 韓国も中秋はあるけれど、月餅を買って贈り合うのではなく、三日月型の餅(ソンピョン)を作って供える。どちらかというと日本の月見団子に近い家族行事。
🌕横浜中華街では毎年月餅フェアが行われ、ローズホテル横浜では毎年巨大月餅が作られ、例年は無料配布される(★参考記事
🌕崎陽軒の月餅はこちらから購入できます↓

🥮なぜ日本には根付かなかったのか?

こうして月餅事情を見てみると、中国文化の影響を受けているにも関わらず、どうして日本だけこんなに中秋/月餅文化がないのだろうかと不思議に思えてきます。

その理由を考えてみると、ここまでにも述べましたが、今のところまだビジネスと結びついていないことが最大の要因なのではないかと思います。

私はビジネスに詳しいわけではないので偉そうなことは言えないのですが、「これだけ中華圏で一大イベントになっているのになぜ日本では定着していないのか!?」という話をお月見リーダーの渥美まいこさんとしていた際に、「中秋月餅ビジネスを後押しする支持母体がいなかったからかな」という話をされていて、非常に納得感がありました。
バレンタインチョコはお菓子業界、恵方巻きはコンビニ業界、クリスマスケーキは洋菓子業界(?)が需要を生み出すために盛り上げて文化を作ったという背景があるわけですが、では月餅文化を生んで儲かるのは誰かというと和菓子屋さんとパン屋さんといったところで、いずれも残念ながら1社で盛り上げるほどの財力があるわけでも業界として強いわけでもなさそうです。

しかしながら、中華圏の最近の月餅を見ていると、もはや伝統焼菓子の域を出て、生菓子であり高級スイーツでありご褒美スイーツにもなりえて、菓子メーカーやファッションブランドまであらゆる産業まで参入してきているので、日本も何らかの業界が新たなビジネスチャンスと考えて力を入れれば広がるのかもしれません。

(2021.9.21追記 なぜ日本で定着しなかったかという点については、新しいお月見さんのnoteに更新された考察がより参考になりそうです)

個人的で意見で締めますと、私は正直月を見なくても何も困らないのですが、一年に一度おいしいお菓子が生まれ、お世話になっている人に感謝を伝えられる、そういう機会がバレンタインよりも少し文化的な風合いで存在するのは、なかなか素敵でよさそうだなあと思います。

Enjoy 月餅!

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