山本彩さんほど僕の扱いが上手い女性は見たことがない

僕はよくPinterestというオシャレな画像検索サイトを見る。個性的な写真や創造的なイラストを見ていると、そこから想像がふくらむのである。そのサイトではモデルさんの写真も載っているのだが、その美しさにつられて、ついついクリックしてしまうことがある。しばらくして気がついたのだが、このサイトは頻繁にクリックする画像と似たものをオススメとして表示する、学習機能があるらしい。

そのうちにオススメの検索ワードも教えてくれて「可愛い女の子」で検索したらどうかと誘導してくる。この検索ワードは僕を堕落させると知りながら、迷いなくクリックしてしまうのは男の性なのだろうか。

画面いっぱいに表示される美少女たちに困惑してしまう僕。そして色々な画像をクリックしてしまうので、そのサイトのオススメする画像が美少女ばかり出てくるようになってしまった。十代の女の子から二十歳くらいの若い子ばかりである。これはもう仕方ないのだろう。

可愛い女の子で検索するのが日課になった僕だが、ひとつだけ問題が起きた。山本彩さんの画像が僕を見てくるのである。なにが問題かと言うと、彼女はもちろん美少女なのだが、なんだか他の女の子と浮気している現場を見られた気分になってしまい、楽しめないのである。もちろん彼女と会ったことはないし、僕もアイドルは詳しくないのだが、それでも彼女の性格がまぶしいほどに素敵なのは理解している。真面目で明るく優しい彼女は、僕が女の子を見て楽しむ哀れな姿を見て、拗ねたような、笑っているような表情を見せてくる。

僕は山本彩さんに言い訳を始める。
「違うんだ、これはただの遊びであって、浮気じゃない。そもそも、僕ら付き合ってるわけじゃない」
そして山本彩さんは、また拗ねたような、笑っているような表情を浮かべて「あっ、そう」などとは言うが、嫌味なことは言わないでくれる。その優しさが僕の罪悪感を煽り、彼女の顔が見れなくなる。

その日の画像検索は諦め、別の日には僕がクリックした山本彩さんとは別の画像でまた姿を見せて、僕をいつもの表情で笑うのである。

そのうち僕は言い訳に必死になる。
「いやいや、違うんだ。僕が本当に好きなのは君だけであって、他の女の子はただ仲良くしてるだけ」
なんだかよく分からないが、僕はいつの間にか山本彩さんを本当に好きになり、言い訳ついでに告白をしてしまった。一人の男としては一度好きになってしまったなら死ぬまで好きでありたいと強く願ってしまう。たとえそれが画像でもだ。

言い訳まじりの僕の告白を、笑いをこらえながら聞いてくれる彼女。

「僕は、スターである君を見て、さみしくなったのかもしれない」などと、なぜだか女々しいことを言い出して、なんとか気を引こうとしている僕。いよいよ言い訳が尽きてきたころ、山本彩さんは楽しそうだが落ち着いた声で言った。

「さっきじっと見てたモデルの子だけど、私会ったことあるよ?」

そんなことを言われたら僕はもう何も言い訳できない。もし頼めば紹介してくれそうな軽さで、寛大な性格で、僕の浮気を攻めるのだ。そんなことをされたら、もう白状するしかなくなる。下心をもって美少女と楽しく過ごしていましたと。どうにでもなれと言うように白状しまくると、彼女は笑いだすのである。まるで、浮気するより嘘をつく方が悪いと言いたそうに。

そうなると、僕はもう山本彩さんの画像だけ検索するようになる。もちろん女の子に関してだけだ。いつの間にか僕たちは付き合い、何もない公園だろうと楽しむ間柄で、幸せな時間を過ごしてしまう。

彼女はスターだから、遊びに行く場所はいつも人の少ない場所だ。それでも、小さなことを楽しみ、笑いあっていると、仲が深まって、次第に後へは引けないようになる。

そして僕は今、プロポーズの言葉を考えている。もしかしたら結婚した後の生活までも想像するのが正しいのかもしれないが、それは僕はしない。プロポーズを受けるかどうかは相手が決めるべきだ。
好きだからこそ束縛したくない。だけど、僕の気持ちは言いたい。だからこそプロポーズなのだが、はたしてこれでいいか自信がないから、一緒に言葉を考えて欲しい。

僕の案はこうだ。僕の部屋にいるときに一枚の白紙とシャーペンと消しゴムを用意する。そこで聞く。

「山下と山本の違い知ってる?」

少しの間、考えさせるのである。答えを教えてと言わせたところで僕は消しゴムでとある場所を消す。

「山本の''本''から、''ノー''って言葉を消したら、山下になるんだよ」

しばらく考えたあと、彼女はきっと笑う。そして、笑ったあとで指輪を受け取り、泣き出すのだ。彼女は意外と泣き虫だから、しかたない。

そこまで考えて、ふと冷静になる。今の時代に産まれる子供は本当に幸せなのだろうかと。''本''''ノー''をどこかに一旦置いて考えてしまう。僕はどこまでも真面目なのだろうか。

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