⼤⼈になるきみへ⑨ ⼈の⼼を開く鍵は「相⼿を好きになること」
★★★『大人になるきみへ』というのは、帝京大学病院難聴児親の会のメンバーが、5年間話しあい、知恵を出し合って執筆し制作した小さな本です。幼児期の言語指導を終えて、これから思春期を迎えようという子どもたちに向け、ああでもない、こうでもないと言い合った挙句にたどりついた11本のメッセージ。8人のお母さんたちが分担して執筆しました。
「聞こえない・聞こえにくい」子どもたちで、コミュニケーションに心配があれば、気になる人と友だちになるチャンスをつかみ損ねたり、苦手意識を持つこともあるかもしれません。
6本めのメッセージでは、「人と仲良くなるために、どうすればいいのか」……立ち止まって、その秘訣について、ていねいに考えてみることを勧めています。★★★
⼈の⼼を開く鍵は「相⼿を好きになること」
難聴ゆえに、きみたちは他の⼈の話が聞き取りにくかったり、逆に⾃分の発⾳、発⾔が相⼿に通じにくいという経験がいっぱいあるでしょう。
そして、⾃分は難聴だから健聴の⼈とは違うんだと、⼈を分けてしまったり、どうせ私の気持ちなんか誰にもわかってもらえっこないと、⾃分の殻に閉じこもってしまうことはありませんか?
とくに、グループでの会話やクラス全体での話し合いなどは、話題の展開が早くて、討論に参加できなかったり、 他の⼈たちのワイワイガヤガヤの雑談についていけず、ひとりだけ輪の外にいるような違和感と厚い壁を感じたこともあるでしょう。
そんなとき、誰かひとりぐらい私に話の内容を伝えてくれればいいのにとか、私も仲間に誘ってくれてもいいのに、どうして仲間はずれにするんだろうと 疎外感をあじわったこともあるでしょう。
⾃分から仲間に溶け込みたいと思っても、⾃分をうまく出せなかったり、⾃信を持って⾏動をしている⼈を⾒て、⾃分もあんなふうに振る舞えたらどんなにいいだろう、と羨ましくなったりしませんか。
同時に、⾃分の性格や⾏動を悔やみ、⾃⼰嫌悪におちいり悩んだり、……それらは⼈として当然の悩みなのです。はたから⾒て何の悩みもないように⾒える⼈でも、友⼈・対⼈関係で悩んでいる⼈はけっこう多いものなのです。
⾃分ひとりだけが悩みをかかえ、苦しんでいるように思ってしまうかもしれませんが、その悩みのほとんどは、きみたちの思い込みによるもので、周囲の⼈たちは決してきみたちを仲間外れにしているつもりはないのです。
周囲の⼈たちは難聴について知らない、きみたちにどう接していいかわからないだけなのです。
チャンスを⾒て、きみたちのほうからコミュニケーションの⽅法をアピールしてみたらどうだろう。
顔を向けて話してほしいとか、通じないときは、動作や筆談で筆談を交えてくれるとわかりやすいとか、具体的に伝えてみませんか?
意外とうまくいくかもしれません。
そして、そうすることが、相⼿やこれから付き合っていく⼈たちにとっても、いいことなのです。コミュニ ケーションの⽅法がわかれば、周囲の⼈が感じていたこだわりがスーッと取れるかもしれません。
そうそう、きみのほうから相⼿に近づくことが、⾃分の殻を破る第⼀歩です。
きみが⼀歩近づけば、ホラ、相⼿との距離がグンと近くなりますよ。
この⼈と付き合ってみたい、仲良くなりたいと思ったら、勇気を出してアタックしてみよう!
断られたら恥ずかしいなどと、悪い結果を予測してやめてしまったら、友だちになれるチャンスを自分から断ってしまったことになるのです。
⾃分に⾃信が持てないと、⼈は周囲がどう思うかが気になって、引き下がってしまったり、⾏動や考えの基準を他⼈に合わせてしまうこともあるでしょう。 でも、他⼈が⾃分をどう思うかってことは⼤したことではなく、⾃分がどう思い考えるかってことの⽅がよっぽど⼤切なのです。
まず、きみが⾃分の⼼と素直に向き合い、まず、きみから相⼿をスキになってみよう。そして、ほんとうの私を知ってくださいとオープンな⼼で付き合ってみたら、きっと相⼿も⼼を開いて付き合ってくれるでしょう。⼈と付き合うって、まんざらでもないのですよ。
⼈間は⼈の間でしか⽣きていけないものなのです。⼈と付き合っていくなかで、きみ⾃⾝も⾃分の⽋点を直していこう。相⼿を思いやる優しさが持てるよう努⼒する気持ちを持って、⽇々⽣活してみよう。
そんなきみたちの姿は、魅⼒にあふれ、周囲から信頼されることうけあいです。
きみには、同じ障害を持つ友⼈も⼤切です。同じような経験をし、悩み、苦しさを分かちあえるのは、難聴のつらさを知っている友でしょう。
学校や社会で孤⽴し、 閉鎖的な気持ちになったとき、「そうだ、あそこへ⾏けば仲間がいる」「私の悩みを話せ、理解してくれる友がいる」「苦しいのは私だけじゃない」と思える友がいたらどんなに⼼強いでしょう。
難聴者のサークルもありますし、⾃分たちで集いの場をつくるのもいいでしょう。
病院や難聴学級などで知り合った⼈を⼤切にし、⻑く交流してください。
良き先輩を⽬標に、希望を持って同じ障害者とともに歩み、⽣きていこうではありませんか。
そして、みんな頑張ってるなぁと、健聴の⼈たちの⽣きる⽬標になれるよう、めざしてください。 期待しています。