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28歳のドラマティック・コンプレックス(2/2)

*このnoteは「14歳のドラマティック・コンプレックス」の続きです。

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 中途半端に曇った空。

 雨が降るほど重たくなく、太陽が覗くほど薄くもない。

 火葬場から上がる煙と重なり、よよ子の父親の遺体が、曇天の空と同化してゆく。

 背中をドン、と押されたら、お父さんのいない世界のレールに乗り移っていて、お父さんが遠ざかるのをふりかえる暇も与えられないまま、ランニングマシンみたいにどんどん流れてくる病院や葬儀屋や親族からの段取りに追われてやっとレールが止まったと思ったら、この曇天の空の下に放り出されたような。

 電話はめったに鳴らない。鳴ったとしても、不在宅配をしてくれた宅配便のお兄さんくらい。知らない電話番号には出ないし、一度出なければかけ直してくる人もめったにいないから無視する。最初の電話も、きっとたいした用事ではないのだ。

 という話を、成人式で再会したルイにすると、「大人としてどうなの」と苦笑いをされた。電話番号がなくてもほとんどの人と通話できるでしょ、と返すと「まあね」とルイは目をそらした。成人しても、ルイの白くて細い手足は変わらなかった。

 よよ子の父親も、電話番号ではなく、SNSで電話をかけてきた。大学進学のために上京したあと、実家に帰ってよよ子がアプリをダウンロードして使い方を教えたら、その便利さに、にわかに興奮したのかしょっちゅう短いメッセージを送ったり、用もないのに電話をかけたりしてきた。よよ子は、その電話にもほとんど出なかった。

 SNSへの興奮もさめてきたころ、父親は体をこわした。仕事もまともにできなくなり、家賃を払えず、よよ子の実家だったアパートは引き払われ、父親は姉(よよ子の叔母)の家に厄介になり、通院し始めた。

 よよ子は大学の寮に住んでいた。叔母は「大学を辞めて、父親の看病のために帰って来い」と、よよ子にしつこく迫った。けれどその度に、絶対に大学を卒業するまで帰ってくるなと叔母の言葉を打ち消した。よよ子は、反論も同意もしなかった。

 上京したよよ子にとって東京の刺激は、なめてもなめても味がなくならない、キャンディのようだった。その甘さを一度覚えてしまうと、離れられない。

 よよ子は父親と叔母の、どちらの言いなりになるのも癪に触った。だから父親にも叔母にも連絡を取らず、大学に通い、東京の街が浸かっている甘い蜜を吸い続けた。

 大学を卒業するころ、父親は一度目の手術をした。

 「よよ子」

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