14歳のドラマティック・コンプレックス(1/2)

「もともと特別なオンリーワン」。

 数年前に流行った歌の、この歌詞を初めて聞いたとき、身の毛がよだった。

 我々は、オンリーワンだ。たしかに。同じ人間は存在しない。

 でもだから、全員が特別かというと、とんだ思い違い。全員が唯一無二になったとたん、「全員が唯一無二、という凡庸」を背負う矛盾。だから、特別であるかないかは、そもそも議論の余地なし。

 ──という屁理屈を頭のなかでこねながら、手元はシャーペンの先でノートに穴が空くほど黒い渦を重ねる。その渦が濃く、ノートの穴が広がっていくと、アッと思いつく。

 そして、社会のノートの裏に重ねておいた、もう一冊のノートに線を引く。

 漫画のストーリーを思いつくのは、やっかいなことに、授業中であることが多い。役に立つのかも分からない公式や文法を覚えるよう強いられたとたん、負荷のかかった脳みそは逃げ場を探して、ファンタジーの世界へ飛び込む。だから、授業中がいちばん、冴えている。

 いま描いているのは、魔法使いの物語。魔法がなぜ生まれたのか、始祖とその初弟子の物語。

 漫画は良い。何をしてもいい。叶わない恋を叶えたり、悲劇的に引き裂いたり、平和のために戦ったり、人を殺めたりできる。

 物語はいつだって、起承転結や序破急が約束されている。

 「事実は小説より奇なり」という言葉を、この前読んだ漫画が教えてくれた。けれど、私の人生が漫画よりドラマティックなんて、思えない。

 現実世界は、オンリーワンではいられない。平凡さを背負って生きていくしかない。だったらせめて、私が選びたくても選べない人生を、選ばれたくても選ばれない人生を、別世界に囲っておきたい。誰にも侵されない、実現不可なオンリーワンの世界を。

 「三枝木、五・一五事件と二・二六事件のちがい、言ってみろ」

 ノートにかじり付いていた、よよ子の後頭部に、担任の志島の声が飛んできた。

 突然、自分の苗字が呼ばれてハッと顔を上げると、周囲のクラスメイトの視線が集まっていることに気づく。こちらを見ていないクラスメイトの背中や後ろ姿からも、よよ子の返事を待っている気配が伝わってくる。

 「あ」

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