ヒトガタ

10年くらい前になるか。とある夫婦の家で起きた話である。
よくあるオタク夫婦だったが、彼らの家では「人型」の物、いわゆる萌えフィギュアを置く事ができなかった。
それには理由がある。「どこかに行くから」である。

実際に、雑誌の付録やガチャポンのフィギュアを置いておくと、触ってないのに場所は移動する、台座だけ残して消えてしばらくしてから戻ってくる。
そんな事が日常のように起きていたのである。

人型ではない物はどうだったのであろうか。実験してみた。
ぬいぐるみ、これは大丈夫だった。
ガンプラも大丈夫だった。
アンドロイドのフィギュアも大丈夫だった。
上半身だけのいわゆるチェストと呼ばれる物も大丈夫だった。
下半身だけのフィギュアは当時は見たことも聞いた事もないので不明。今はそんな物が存在するようであるが。
イルカや鳥等の動物は大丈夫だった。

ある時、どうしても妻が欲しいというので、Fate/stay nightのSDフィギュアを買った。
いわゆるブリスターパックと言われる形で、プラスチックのケースの上に紙箱の外装で包まれている。

アーチャー&凜

深夜に寝ていると箱を置いてある隣の部屋の棚から「カタカタ……」と音が聞こえてくる。
「「動いてるねぇ……」」
翌朝、中身だけが綺麗に消えており、仕方なく箱だけ一旦片付けておいた。

人型のフィギュアが消えたり戻ってきたりする事はわかったが、一つだけ例外があった。
チョコエッグに入っていた、シロナガスクジラのフィギュアである。
時々、台座だけ残して消えてどこかに行っては、またひょっこりと戻ってきていた。
日常の風景だった。

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