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探し物はなんですか~第2話:散歩~

「きんぐ、ぼく散歩ついでに見てくるよ」


丸メガネをかけたシュッとした恰好の男は気軽にそう言った。

しかし私はそれがついでではないことを知っていた。こんな真夏の暑い夜に気軽にいきたい場所ではないことぐらいわかっていたのだ。そしておそらくその試みが成功する可能性が極端に低いことも。※ちなみにきんぐというのはシェアハウスでの私の俗称である。どうやらみさきんぐからきているらしい。


「いや、でももう見てきたし。きっとないよ。」


私はあきらめかけた気持ちを素直にそう表した。こんな暑い夜に悪いな、そうも思った。


「でも、きんぐにとって重要なものだよね?頑張って探せばきっとみつかるよ。」


にこやかに笑うその男の目には静かに燃える炎が宿っていた。彼は私が住んでいるシェアハウスで一番仲がよく、この辺り一帯を取り仕切っているクリーニング屋の御曹司である。

もしかするとこいつなら見つけるかもしれん。私は少し気持ちを持ち直した。


「そうだな。とりあえずもう一回探してみるか。城址公園が一番怪しいと思うんだ。」


私は頼る気持ちでそう答えた。丸メガネの男は無邪気にうなづいた。


「よし、んじゃ行こう」


こうして男たちは携帯のライト片手に夜の公園へとむかった。失くしたものを取り戻しに・・・

そうだ、そうなのだ。私は失くしてしまったのだ。私にとってとても重要で大切なものを。しかしもう見つけるしかない。

諦めたらそこで試合終了ですよ。


白髪で小太りの初老の男性にそう言われた気さえした。
城址公園とは関東七名城の1つに数えられ、戊辰戦争の際に焼失してしまった宇都宮城本丸の一部であった「清明台」、「富士見櫓」、「石垣と土塁」、「土塀」および「堀」を外観復元し、改称してできた宇都宮市にある公園である。市民の憩いの場として親しまれており、周回は1㎞にも満たないが、家から近いのと信号がないでの私はよくジョギングに利用していた。

いつもは市民ジョガーがいたり周りの子供たちが遊んでいる活気のある公園も、その時は夜の闇を飲み込んだ不気味な場所へと変貌を遂げていた。そして当然のごとくむせかえるような暑さが辺りを包みこむ。

こんなところで果たしてみつけられるんだろうか。いいしれない不安が頭の中をよぎる。しかしここまできて引きかえすわけにはいかない。丸メガネの男は逆にやる気がでているようだった。


「きんぐは失くさないよ。ぼくがみつけるから」


そう言われた気さえした。

そして2人の男は薩長藩の藩士の如く静かに旧宇都宮城の夜のしじまに足を踏み入れたのだった。

つづく


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