大阪医科薬科大学事件(最判令和2年10月13日)

第1 事案の概要

アルバイト社員であった原告が、被告に対して、①アルバイト社員に対して、正職員及び契約社員に対して支払われている賞与を支払わないこと、及び②正職員が私傷病により休職した場合、6月間は給与全額が支給され、その後も給与の2割が支払われるのに、アルバイト社員には支払われないのは違法であるとして、不法行為に基づき損害賠償請求した事案

第2 判旨

1 ①について
(規範)
労契法20条違反の有無の判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。
(賞与の性質)
賞与については、規程上、必要と認めた場合に支給するとのみ規定されており、基本給とは別に支給される一時金として、その算定期間における財務状況等を踏まえてその都度決定される。また支給実績に照らすと、被告の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして、正職員の基本給は、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる。これらの事実からすると、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的により、正職員に対して賞与を支給することとしたものといえる。
(職務の内容等の差違)
原告の業務は相当に軽易であることがうかがわれるのに対し、教室事務員である正職員は、学内の英文学術誌の編集事務等、病理解剖に関する遺族等への対応や部門間の連携を要する業務又は毒劇物等の試薬の管理業務等にも従事する必要があったのであり、両者の職務の内容に一定の相違があったことは否定できない。また正職員については人事異動を命ぜられる可能性があったのに対し、アルバイト職員については原則として配置転換はなく、人事異動は例外的かつ個別的な事情により行われていたものであり、両者の職務の内容及び配置の変更の範囲に一定の相違があったことも否定できない。また、アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたものである。
(結論)
正職員に対する賞与の支給額がおおむね通年で基本給の4.6か月分であり、そこに労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや、正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の約80%に相当する賞与が支給されていたこと、アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計額と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても不合理と評価することはできない。

2 ②について
私傷病休養に対する手当の支給は、正職員が長期にわたり継続して就労し、又は将来にわたって継続して就労することが期待されることに照らし、正職員の生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保するという目的によるものと解される。アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難い。
また、前記のとおり、正職員とアルバイト職員との間には職務の内容及び変更の範囲に一定の相違があり、教室事務員である正職員が極めて少数にとどまり、職種を変更するための試験による登用制度が設けられていたという事情が存在する。
以上の事実に照らすと、アルバイト社員である原告に対して当該手当を支給しないことは不合理とは言えない。

第3 雑感

賞与の不支給に対する判断との関係について若干の感想を述べる。まず、本事案の第二審(大阪高判平成31年2月15日)は、(私の知る限り)正社員とパート・有期労働者に対する賞与支給における差違について、唯一不合理性を認めた裁判例であるが、本判決は第二審の判断を覆した。したがって、賞与の不支給につき、パート・有期法8条(旧労契法20条)違反を認めた確定判決は未だ存在しないと思われる。
この点、同一労働同一賃金ガイドライン(厚労省告示第430号)は、「賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。」としている。そうすると、純粋に労働者の貢献に対する報償という目的のみを根拠に支給される賞与については、正社員とパート・有期労働者に対する支給の差違を設けることについて不合理性が認められる可能性がある。
しかし、現実問題として、通常賞与は本判決で指摘されているような複合的な趣旨・目的によって支給されるものであり、「労働者の貢献に対する報償」のみを根拠に支給していると判断される場合は考えがたい。そして、賞与のうちどの部分が「労働者の貢献に対する報償」に当たり、その部分に不合理な差別があるのかを裁判所が判断することも困難であろう。すなわち、本事案とは異なり、パート・有期労働者に対しても少しは支給しているような場合には、不合理性が肯定される可能性は更に低いものと思われる。
一方、本判決では、合理性が認められているものの、パート・有期労働者に対する賞与を全く不支給としている場合には、上記ガイドラインを踏まえると、不合理とされるリスクがないわけではないから注意が必要である。なお、本判決でも指摘されているほか、その他の同一労働同一賃金を巡った裁判例でも指摘されるように、「正社員登用制度が存在し、実際に相当の登用実績があること」は、合理性を肯定する上でかなり重視されているようであるから、パート・有期労働者に対する賞与を不支給としている企業においては、当該制度を導入し、(既に導入している企業も)積極的に運用していくことが望ましいだろう。

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