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『ちぃちゃんの宝物』

ちぃちゃんはパパが大好きです。

幼稚園に行きたくなくて泣いたとき、
ママは怒りますが、
パパは一緒に
団地のお砂場で遊んでくれます。

パパが
「お砂遊びするか?」と聞くと、
さっきまであんなに泣いてたちいちゃんは
キャッキャとうれしそうに、
小さなバケツとシャベルを取りに行きます。

幼稚園のお砂場で
みんなが遊んでいるとき、
いつもちぃちゃんだけ
お砂場の外でぽつーんと立っているのを
パパは知っています。

だけどこないだ、
幼稚園の門の外から
こっそりのぞいていたパパが、
担任の角田先生に怒られていたことを
ちぃちゃんは知っています。

幼稚園は、
パパの会社の通り道なのです。

パパを見つけたちぃちゃんが
うれしくなって手を振ったら、
「お父さんが来ると
 自立心が育たないから来ないで下さい」
と言われたそうです。

「みんなとお砂場遊びができない子は
 協調性がない子になる」

と、角田先生は言いますが、
ちぃちゃんはただ静かに
お砂場遊びがしたいだけなのです。

「今日はうさぎさんを作ろう、
 真っ赤なビー玉でお目目を付けて
 最後にサラッサラの白い粉をかけて、
 葉っぱを飾って・・・。」

「名前はなんて付けようかな・・
 寂しくないように
 お母さんも作ってあげよう。」

そんな風に、ちゃーんと砂の中には
うさぎさんが見えているのに…
お話も、ちゃーんともう出来ているのに…。

ちぃちゃんは、それを他の子たちに
「メカウサギにしちゃおうぜー!!」
と、勝手に穴をあけたり
耳を大きくされたり
ドカドカ踏んづけられたりするのが嫌なのです。

みんなの「楽しい」の邪魔はしないから、
ちぃちゃんの「楽しい」の
邪魔もしないで欲しいだけなのです。

幼稚園をサボって
2人でお砂場遊びをするとき、
パパはいつもいろんなお話をしてくれます。
ちぃちゃんはそれを聴くのが大好きです。

難しいことはわからないけど、
パパがちぃちゃんを「小さい人間」として
大事に扱ってくれるのはわかるのです。

おっちょこちょいなママは、
床に落ちているパパの本を
すぐに踏んづけますが、
ちぃちゃんは絶対に踏んづけません。

落ちているのを見つけたら、
ハイハイしながらよっちらよっちら、
パパのいるところまで本を届けに参ります。

当時、生活するのに精いっぱいだったパパが
本を買うのにどれだけ苦労していたかなんて、
ちぃちゃんにはわかりません。

でも、パパがいつも本を肌身離さず
熱心に読んでいることはわかるのです。

きっと「あれは、パパの宝物だろう」と思うのです。

ある日、パパがお仕事から帰ってくると、
まだ、よちよち歩きのちぃちゃんが
手に何かを持って近づいて来ました。

にっこにこの笑顔で
「ん!」っと差し出した
手の中に入っていたのは、
まん丸の飴玉でした。

ママに聴くと、
生まれて初めて食べた飴というものが
えらく気に入ったちぃちゃんは、
「もいっこ、もいっこ」とせがんだそうです。

ずっと握りしめていた
手の中の飴はべとべとで
途中で落っことしたのか、
ゴミだらけになっていました。

パパは一瞬
「まいったなぁ…」と思いましたが、
一生懸命なちぃちゃんの顔を見て
にっこり笑い
もらった飴玉をパクっと口に入れました。

その様子を、
ちぃちゃんはワクワクした顔で
じーっと見つめていました。

「美味しいね~」とパパがもう一回
にっこり笑いかけると、
ちぃちゃんもうれしそうに
にっこり笑って頷きました。

ちぃちゃんが、
大事に大事に持っていた飴玉は
とっても優しい味がしました。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

◇◆ あとがき ◆◇

お久しぶりです。misae です!!

7年ぶりくらいに
noteを再開しようと開いたら、
ちょうど素敵な企画をやっていたので
参加させていただきました✨
(  ´ ᵕ `)♡✨

この話は、父と私の物語です。

私が学生で父が元気だった頃、
私が小さいときの話をしてくれたのを
思い出して書いてみました。

17年前に脳梗塞で倒れてから数年、
当時の父は高次脳機能障害のせいで
被害妄想も激しく、
私との記憶も曖昧になってしまったり、

記憶違いで過去の私の言動や人格まで
全否定するようになってしまいました。

私が中学生の頃から、父一人子一人。

尊敬する父の背中を見ながら、
「父の娘として恥ずかしくないように。
 自分に恥じないように。」

と精一杯生きてきた私は、
心の拠り所を失ってしまいました。

でも、以前に
このエピソードを語ってくれた父の

「お前は他人(ひと)の大切なものを
 ちゃんと大切にできる人間なんだ。
 小さくても、
 お前はちゃんとわかっていた。」

と、言ってくれた言葉を頼りに、
私は自分に絶望せずに生きてこれました。

今も私の中で、
ひたむきで真っすぐな瞳のちぃちゃんは生きています。

悲しい記憶もたくさんある
長年の介護生活の中で、

大好きだったこの頃の優しい父も

ちぃちゃんに手を引かれて
戻って来てくれました✨

今後は、
亡くなったママとの思い出のエピソードや
自分の体験した数々の出会いや
不思議な出来事を
物語として書いていきたいと思います。

久しぶりにnote に戻ってきて
生き返ったぞい!!(/・ω・)/💖

note のみなさん、またよろしくね!!

※フリー台本ではないので、
 朗読台本として読みたい方は
 ご一報くださいm(*_ _)m


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