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「怖がらず、自分を壊す勇気を持って」 ライター 浅田よわ美さんに聞く、独立初期の苦労の乗り越え方

「新しいメディアでのお仕事が決まりました!」
「紙媒体で執筆することになりました!」

そんな言葉をSNSで見かけるたびに、焦燥感に駆られます。
フリーライターになって8ヶ月が経った今、同時期にライターになった方々が、活躍の場を広げていくのを目にするようになりました。それに引き換え、私は......。

あれ、なんでみんな、こんなにイキイキと働いているように見えるんだろう。

執筆しているメディアの編集担当、浅田よわ美さんもそのひとりでした。様々なメディアでインタビュー記事を執筆する傍ら、「本よまナイト」の運営やワインの勉強に取り組む浅田さん。その姿は、私にとってあまりに眩しかったのです。だからこそ、浅田さんから「独立初期の頃は、結構苦労したよ」とお聞きしたときは、驚きました。

実力がない。仕事がない。お金がない。独立初期に、こんな悩みを抱えるライターも少なくないと思います。
浅田さんは一体、どうやって独立初期の苦労を乗り越えられたのでしょうか。お話を伺いました。

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浅田よわ美さん 
奈良県出身のライター・編集。主にインタビュー記事を執筆。今まで本を読んでこなかったけど、読書習慣をつけたい読書素人のための本屋「本よまナイト」の店長。

「パラレル親方」での弟子入りをきっかけにライターへ

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ーーライターになったきっかけについて教えてください。

もともとは、出版社で営業をしていたんです。その頃から、営業は嫌いではないけれど、制作側に行きたいという思いが漠然とありました。

私、知らないことを学ぶのが好きなんですよ。でも営業職だと、予算がある人にしか会えない。学びたい人すべてに会えるわけではないと感じていて。
「編集・ライター職なら会いたい人に会えるのでは」と思ってwebメディアの編集部に転職したんですが、入社してみたら、そこでもメインのお仕事は営業でした。編集経験がないので当たり前なんですが(笑)。営業経験しかない私は「サラリーマンである限り、営業になる流れがずっと続くだろうな」と感じましたね。

そんなとき、「パラレル親方」というライター発掘イベントが開催されたんです。プロのライターが、イベント参加者の中から弟子をとるイベントでした。
この機会を逃したら、もうライターにはなれない。そう直感したんです。
だからもう、とにかく弟子になりたくって。めちゃくちゃ前のめりな姿勢で参加しました。そしてエントリー記事(イベントレポート)を提出したら合格して、弟子になれたんですよ。
そこでやっと、ライターになれました。

でも会社を辞めるのは怖かったので、3〜4ヶ月は会社の仕事とライター業を兼務していましたね。

▲「パラレル親方」でのエントリー記事

ーー「会社を辞める」決意が固まるような、出来事があったのでしょうか?

落語家の立川志の春(たてかわ・しのはる)さんへインタビューしたことですね。立川志の春さんは、大手商社を退職して未経験から落語家になった方なんです。

取材前に、立川志の春さんの著書『自分を壊す勇気』を読んで。読む前は「自分を壊す? なんで!? こわいこわい」とか「自分は壊すものじゃなくて活かすものでしょ?」とか思っていたんです。でも読み終わって、「経験の蓄積があれば自分を活かせるけれど、未経験から新たな道に飛び込むなら、まずは自分を壊すことが必要なのか」と気づいて。価値観が180度変わりましたね。
取材で実際にお会いして、「自分を壊す勇気を持った人」が未経験の世界へ飛び込んで、やりたい仕事に熱中している姿を見て、感銘を受けました。

それまでは、「会社を辞めよう」と思う自分と「怖いから会社員でいたい」という自分で戦ってたんです。でも「ええい、自分を壊さなければ、私のライター道は始まらん」と、今まで自分が守ってきた道を壊す勇気をもらいました。
立川志の春さんは私にとって、自分を壊す勇気を持った先輩だったんです。

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▲左:浅田よわ美さん 右:立川志の春さん

「自分を壊した」からこそ今の自分がある

ーー独立してから特に辛かったことは何でしょう?

圧倒的に実力がなかったことです。

当時の私にとって文章を書くことは、ブログを書くとか、そんなイメージだったんです。
最初は、2万字の初稿とか出していましたね(笑)。思うがままにインタビュー記事を書いたら、インタビュー内容が半分、残り半分は私の感想。しかも重複してて、「いらねー」みたいな(笑)。「お前は、美意識が足りない」と、師匠からよく言われました。

そのときも、私なりには頑張ってたんですよ。徹夜で書いてましたしね。
でも、ただ頑張ればいいわけじゃない。未経験の私には、ライターとしての積み重ねがなかったんです。生み出すためのインプットが何もないから、頑張っても良いモノを出せるはずがなかったんですよね。

ーー耳が痛いです......。

私は「パラレル親方」をきっかけにライターになったので、いきなり『ジモコロ』とか『BAMP』とか、多くの人に読まれる媒体で執筆させてもらったんです。そんな媒体で執筆できる未経験ライターって、少ないじゃないですか。だから、私がライターになった経緯を知らない方からすると、私の存在は異様に見えたと思うんです。

師匠からいただいた「よわ美」というペンネームを名乗っていたんですが、「ペンネームだけで覚えてもらおうみたいな、浅はかなライター」と他のライターから言われてしまって。面識がない年上のライターに「俺は君のことが嫌い」と言われたときは、さすがに傷つきました。

ーーえっ......(絶句)。

それに実際、自分の力のなさは自分が一番よく分かっていたので、「私の存在が周囲の負担にしかなっていない」と思うとかなり辛くて。コンビニでお会計するときなど、ふとした瞬間に、無意識に泣いてしまうことがつづきました。

もう、めちゃくちゃ萎縮していましたし、誰とも喋りたくなかったですね。

ーー想像するだけで、胸が締めつけられます。そんな状況をどうやって乗り越えられたんですか。

このときは、まだまだ「自分を壊す勇気」がなかったために、周囲に心を開けていなかったんですよ。自分を壊されるのが怖くて、殻に閉じこもっていました。

そのことに気づくようになってから、とにかく心を開いて、自分の状況や思いを素直に話すようにしました。すると飲み会で知り合った先輩ライターや編集者が助けてくれて、依頼が来るようになったんです。

ただ依頼されたのは、パラレル親方の弟子時代に執筆した実績やお仕事をご紹介くださった方への信頼があったから。2回目以降も依頼してもらえるかどうかは自分次第です。だからリピート依頼をいただけるよう、ひとつひとつの仕事に必死で取り組みました。

それまで生活費を工面するために飲食店でアルバイトをしていたんですが、最低限の収入を得られるようになったので、辞めました。そして、大きく2媒体に絞って仕事をしました。「まずは信頼関係をつくらなきゃ、集中!」って感じだったかな。すると、2媒体のうちの1媒体からは、「良ければ編集をしませんか?」とご連絡をいただいて。1年後、もう1媒体からは月給を上げてもらえることになりました。その2媒体とは、今もお仕事が続いています。

振り返ると、「私には何もない、何もできない」と自覚し、自分を壊して周囲に素直に状況を話したからこそ、今の私があると思います。苦しんでいた頃の自分にアドバイスできるとしたら、「怖がらずに、自分を壊す勇気を持て」と言いたいですね。

環境づくりのために「本よまナイト」を開店

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ーー実力不足に悩む初心者ライターは少なくないと思います。ライターとしての実力を磨くために、取り組まれたことはありますか?

先輩ライターから「良い文章を書くためには、本をたくさん読むことが大切」と聞き、早速話題の本を10冊ほど買いに走りました。でも、本を読む時間をなかなかつくれなくて。

そこで、本を読む環境をつくるために本屋を運営することにしました。本屋の店長になれば、強制的に本を読む習慣が身に付くと考えたからです。

またせっかくなら、私みたいに「本を読まないと!」と思っている方々と一緒に本を読むひとときを持てればと、週に一度「本よまナイト」を開くようになりました。(現在はオンラインのみで開催中)。

ーー私も日々「本読まないと......」と思っていますし、意識的に読書するライターは多いと思います。でも、だからといって、自ら本屋を運営しようとするライターは、なかなかいませんよ!

昔から、環境に身をおくことが一番自分を変えてくれると思っていて。これからも何かを目指すときは、環境づくりから入ると思います。

ーー「本よまナイト」の運営が仕事に活きたことはありましたか?

本を読まないライターって、少ないと思うんです。だから、本を共通の話題としてライターや編集者と盛り上がれましたし、本が好きというだけで知り合いが増えましたね。「本よまナイト」の参加者が、仕事を依頼してくれたこともありました。

それにインタビュー中の質問や、心情や景色の表現など、少しだけ引き出しが増えたかなと。

知識を身につけるため、出会いを増やし続けるため、仕事の息抜きのため。「本よまナイト」での活動や本を読むひとときは、これからも必要なことだと思います。

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▲「本よまナイト」開店当時の店内

楽しく働くことが、誰かの「生きやすさ」に繋れば

ーーライターとして、今後の方向性は定められていますか。

方向性は定まっていないし、定める気もありません。私の場合、言語化すると「有言実行しなきゃいけない」と責任を感じてしまうし、飽きてもしまうかもしれないんです。

ただ私は、会社員時代も独立後も働き方についていろいろと悩んできたので、インタビューを通じて「生きやすくなるヒント」を教えてもらって記事にして、多くの人に届けたい。そうすることが、誰かの「生きやすさ」「自分らしい暮らし」に繋がったらと思っています。

ーー私もフリーライターとして「自分らしい暮らし」を模索中なんです。

ライターを目指す人や若い人に「頑張れば、ライターはちゃんと稼げる職種だよ」って言えるようになりたい、とも考えています。
ライターがちゃんと稼げる職種のひとつとして認知されたら、生きやすくなる人が増えると思うんです。ライターの仕事って、過去の経験すべてを生かせるし、挫折した経験すらも寄り添う力にできますから。ライターになることで、自分らしさが発揮できる方もいるのではないでしょうか。

ライターがちゃんと稼げる職種であることを示すためにも、専門性を磨いて年収を上げていかないと。私は今、ワインに興味があるので、週に1日ワインバーで働きながら、ワインスクールに通っています。

自分が楽しみながら働き、暮らしていくことによって、多くの人が楽しく働いて暮らしていくことの一助になれば、嬉しいですね。

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画像提供:浅田よわ美さん
取材・執筆:三間有紗


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