「委員は恋に飢えている!」第31会



第31会「昼ごはんのお弁当」


経理委員会での手伝いと金速姉妹のいざこざを解消してから数日。
「うぅぅ…」
教室で土門がうなだれていた。

「土門。どうしたんだよ」
「二年生が修学旅行でいない。これがどういうことが分かるか?」
「な、なんだよ。委員会とか部活が大変になるとか?」
「はぁ。まあそれもそうだけどさ。結川先輩がいないじゃねーか!」
「ああ。たしかに」
「俺は結川先輩に会いたくて委員会に行ってるのに…。しばらく何にもやる気が起きねーよ…」
そう言って土門は机に突っ伏した。

二年生の教室に行くことはほとんどないが、それでも学校全体がいつもより静かな気がする。
一学年いないだけでこんなに変わるものなのかと思いながら、俺はいつもどおり過ごしてた。

その日の昼休み。俺はパンを買おうと思い、購買に向かった。
「月くん!」
「…世理先輩」
俺を呼び止めたのは美化委員の委員長、世理秋生せりあきな先輩だった。
夏休みの一件で髪が短くなったので、世理先輩の可愛い顔がしっかり見える。
髪を切った世理先輩は、なんだか自信にあふれているような雰囲気を醸し出していた。

「き、奇遇だね!」
「そうですね。昼にパンを買おうと思って」
「そうなんだ。いつもお昼はパンなの?」
「…そうですね…。ほんとはお金をあまり使いたくないんですけど、朝用意する時間が無くて…。お母さんに手間をかけさせたくもないので、基本的に昼は購買とか学食で済ませますね…」
といっても学食を使うことはほとんどない。

当然、パンだけの方が安く済むからだ。
「た、大変だね…。でも、それだけだとお腹空かない?」
「空いちゃいます。でもしょうがないので…」
「…」
世理先輩は黙り込んでしまった。変に気を遣わせてしまったかもしれない。

「月くん!」
「は、はい!」
「今日、というか二年生が修学旅行から帰ってくるまで、美化委員のお手伝いしてくれないかな?」
「もちろんですよ。世理先輩の頼みですから。あ、でも会長に言わないと…」
「それは大丈夫!もう言ってあるから」
「仕事が早いですね。それじゃあ、今日の放課後からよろしくお願いします」
「よろしくね!」

そう言って俺は世理先輩と別れ、一番安いあんパンを買って教室に戻った。



その日の放課後、俺は美化委員室に向かった。
「失礼します」
「お疲れ様、月くん」
美化委員室では世理先輩が出迎えてくれた。

「…なんというか、結川先輩がいないと静かですね」
「ふふっ、藍ちゃんが聞いてたら怒られてるよ」
世理先輩は手で口元を抑えながら笑っていた。小動物みたいでかわいい。

「今回もお世話ですか?」
「それもそうなんだけど、人が少ないから私たちも見回りとかに行かないと…」
「わかりました。行きましょう」
こうして俺たちは分担された箇所の掃除の見回りに行き、また経理委員室に戻ってきた。

「あれ…。他の人たちはどこに行っちゃったんですか?」
「みんなならもう帰ったよ」
「…マジですか…。今回見回りを手伝ったんですから、お世話の方も手伝ってくれればいいのに…」
「あ、違うの!それは私がいいよって言ったんだよ」
「そうなんですか?」

「うん…。いつもお世話してる私たちの方が慣れてるし、時間もかからないと思って…。月くんには迷惑かけちゃうかもしれないけど…。ごめんね」
「そういうことだったんですか。俺は全然大丈夫です。それじゃ、行きましょ」

飼育小屋について、前にしていたように世話をしていると世理先輩が話しかけてきた。
「つ、月くんさ。経理委員の一年生と付き合ってるって、ほ、本当なの?」
「ええ!?」
どうやら前の金美さんとカップルのふりをしたのが流れたらしい。
一体誰から…。

「付き合ってないですよ!ちょっと色々あって、ほんとに一瞬だけカップルのふりをしただけです!」
「ほんとに…?」
「ほんとです。世理先輩に嘘なんかつきません」
「…よかった…」
何が良かったのだろうか。俺なんかに彼女はまだ早いということだろうか。

「そ、それじゃあ、月くんは今フリーなんだね?」
「まぁ、そうですね」
世理先輩はなんだか嬉しそうだ。
そんなに俺に彼女ができてほしくないのだろうか。なんだか悲しい。
まあ今のところそう言う相手はいないのだが…。

そしてしばらく二人で仕事を続け、今日の分は終わらせることができた。
二人だけだったのと久しぶりだったので俺はかなり疲れてしまった。
「お疲れ様、月くん」
「お疲れ様です。結構疲れちゃいましたね…」
「そうだね。藍ちゃんの偉大さを改めて感じちゃったよ」
「やっぱりすごいですね。結川先輩」
そんな会話をしながら美化委員室に戻って帰る準備をしているとき、世理先輩がゆっくり口を開いた。

「つ、月くん」
「…?」
「お、お昼のことなんだけどさ…」
「お昼?」
「月くん、いつも購買で買ってるって言ってたでしょ?」
「ああ、そうですね」
「それ、月くんが嫌じゃなかったらなんだけど、わ、私が、お、弁当作ってこようか…///?」
世理先輩は顔を赤くしながらそう話した。

「え!?そんな、迷惑かけられないですよ」
「迷惑じゃないよ!」
「でも…」
「月くんは、誰かが作ったお弁当とか、嫌い?」
「そんなことないです!むしろ人が作ってくれたものはどんなものでも食べます」

「それなら…」
「でも、世理先輩に迷惑がかかっちゃうじゃないですか…」
「私は迷惑じゃないからね。…それじゃあ、食べたいか食べたくないか、助かるか助からないかだったらどう?」

「…それは、食べたいですし助かります…」
「じゃあ、作ってきてもいいかな?」
「…それじゃあ、お願いします…」

「で、でも。さすがにずっとは申し訳ないです」
「…そうだよね。どんなに私が良くても、月くんがそう思っちゃったら食べててお気持ち良くないもんね。それじゃあ、二年生が修学旅行でいないこの四日間。あと三日だけど。短いけどこの期間だけっていうのはどうかな?」
「それだったら、嬉しいです」

「…」
「…?」
世理先輩は小さい声で何か言っていたが俺には聞こえなかった。

「…それじゃあ、明日から作ってくるね!」
「ありがとうございます。でも、どうやって受け取りに行けば…」
「あ、そっか…」
その時、世理先輩は何か思いついたようで頬を赤く染めながらもじもじしていた。
(どうしたのだろう…)
そう思った時、世理先輩は新たな提案をしてきた。

「それじゃあ、い、一緒にお昼食べるっていうのはどうかな!…も、もちろん、月くんが良ければだけど…!」
「俺は全然大丈夫ですけど、世理先輩はいいんですか?」
「も、もちろんだよ!一緒に食べてくれるの?」
「わかりました。この教室でいいですかね?」
「う、うん!そうしよう!」
世理先輩はなんだか嬉しそうだ。

それにしても、なんで急に弁当を作ってくれるって言いだしたのだろうか。
もしかしたらいつも結川先輩と食べていて、今はいないから寂しいのかもしれない。
だから一緒にお昼を食べてくれる人が見つけるために俺に弁当を作ってきてくれるのだろう。多分。
俺は勝手にそう解釈することにした。

こうして明日から三日間、俺は世理先輩からお弁当を作ってもらい、世理先輩と一緒にお昼を食べることになった。



藍ちゃんが修学旅行でいないからお昼を食べる人がいない。
特に買うものもなかったけどなんとなく購買に来てみたら、月くんがいた。
(つ、月くん…!)
私は夏休みの時から彼に恋をしている。

でも先日、冬馬くんから月くんと金美さんという子が付き合っているという話を聞いた。
冬馬くんは経理委員室の近くを通ったときに聞いたらしい。

(本当かな…。私が声をかけても迷惑じゃないかな…)
そう思ったけど、直接本人から聞かないと信じることができない。
「ふぅ…」

私は一度深呼吸をして心を落ち着かせた。
(今の私なら、自然に話しかけられるはず…)
そして私は月くんに話しかけた。

月くんと話をするのは楽しい。
好きな人と話すのがこんなに幸せだなんて、恋を知らなかった以前の私には想像もできなかっただろう。
もっと一緒にいたいということで、なんとか理由をつけて美化委員を手伝ってもらえることになった。

「そっか…。月くん、いつもお昼は購買なんだ…」
お腹も空くと言っていたし、きっとパンだけでは足りないのだろう。
月くんには彼女がいるかもしれないけど、何とかしてあげたいと思った。

その時、私は名案を思いついた。
(私がお弁当を作ってあげればいいのでは…?)
我ながらとてもいい案だと思った。
よく考えると、もし本当に彼女さんがいた時これは大問題になるはずなのだが、私はそんなとこまで気が回らなかった。
恋は盲目とはこのことだろう。
でも月くんにこれを提案するのが難しそうだ。

(それはもう…。放課後の私に任せちゃえ!)
私は夏休み、髪を切ってからかなり大胆になった気がする。
以前の私なら、断られるかもしれないことは提案しなかったし、自分から進んで声をかけることなんてほとんどなかった。
私をこんな風にしてくれたのも月くん。

彼のおかげで少しだけど自分に自信も持つことができた。
(早く放課後にならないかな…)
私は月くんと一緒に仕事をできるのを楽しみにしながら午後の授業を乗り切った。

そして放課後。私たちは校内の掃除の見回りを終わらせ、動物たちの世話に向かう。
月くんには私たちの方が慣れているからと説明したけど、本当は二人きりになりたかったからだ。
仕事を終え、まずは例の件を確認してみる。

「一瞬、カップルのふりを…」
その言葉を聞いたとき、よかったと心の底から思った。
月くんはまだフリーなのだ。これならお弁当の話もできる。
そして私はお弁当の提案もした。
藍ちゃんがいない三日間だけだけど、月くんにお弁当を作っていくことができる。

「ふふ、やった!」
それが決まったとき、私は小さい声でそう呟いてガッツポーズをした。
でもそれだけでは終わらなかった。
勢いに任せて、お昼を一緒に食べることになってしまったのだ。

(な、なにやってるの…!そんなの緊張しちゃって何も食べれないよ…!)
でも嬉しくて顔がにやけてしまう。
さて、何を作って持っていこうかな…。
私は月くんと別れると、早速明日のお弁当のことを考えながら家に向かったのだった。


後書き

三十一話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
修学旅行で結川先輩がいない間に世理先輩と月の仲が深まろうとしていますね。
世理先輩は何を作っていくのでしょうか。今から楽しみです。
さて、次は世理先輩視点で書いていこうと思っています。
これまでのようにどちらの視点もというのもいいんですが、なんとなく片方だけの方が集中できる気がしたので。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。


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