「委員は恋に飢えている!」第47会
第47会「風邪」
ピピピッ!
目覚ましの音がうるさい。
普段はこんなに鳴らしておくことはないが、なぜか体が重たい。
俺はゆっくり体を起こして目覚ましを止めた。
「もう朝か…」
眠い目を擦りながらリビングに向かおうと立ち上がる。
「うわっ!」
なぜだか体がよろけてしまい、俺は転んだ。
「いって…」
「ちょっと!?何してるのよ!?」
朝食を作ってくれていた母さんが俺の部屋に来た。
「いや、何でもないよ」
「寝ぼけてるの?」
「そうかも…」
そう答えてもう一度立とうとするが、力が入らず立ち上がれなかった。
「あれ…?おかしいな…」
「…月。あなた、熱あるんじゃないの?」
「そんなわけ…」
「…」
「三十八度二分ね」
「はははっ、きっと体温計壊れてるんだよ」
「そんなわけないわよ。鏡見てみなさい」
母さんから鏡を受け取り、自分の顔を見る。
「…真っ赤だ…」
「まったく…。ほら、布団に戻りなさい。学校には連絡しておくから」
俺は母さんに促されるまま布団に戻った。
「どうしましょう。私は仕事休めないし…」
「大丈夫だよ、寝てれば治るから。母さんは心配しないでよ」
「そう?それじゃあ、何かあったら連絡するのよ?ごめんね、もう行かないといけないから…」
「うん。いってらっしゃい」
布団の中から母さんを見送って、そのまま目をつむる。
「ああ、母さんには心配かけたくなかったのにな…」
一体何が原因だろうか。思い当たる節がない。
「なんだ…?」
最近は生徒会の仕事が忙しくて風邪をひくようなことなんて何も…。
「…それかぁ」
思い返してみると、選挙が終わって生徒会の仕事を始めてから忙しくてしっかり休息を取れていなかった気がする。
体をしっかり休めることができず、免疫力が下がったのかもしれない。
「でもな…、まだやらなきゃいけない仕事が残ってるんだよな…」
そう思っても風邪をひいている状態で完成されられるかもわからない。
「寝るか…」
とにかく体を休めようと思った俺は、そのまま布団の中で目をつむった。
「はぁ、はぁ…」
おかしい。朝からずっと寝ているが一向に熱が下がる気がしない。
むしろ上がってきているような…。
ついさっき目が覚めたので朝から何も食べていない。
何か食べようと思ったが台所へ向かう気力がわかない。
だいぶ熱に負けてるな…。
病は気から、なんて言葉もあるが、あれって病になる前の話だよな…。
こんな状態で気持ちを前向きに持っていく方が難しい。
そもそも、気が落ちてるから病気になるのか、病気だから気が落ちてるのか…。
どっちでもいいな。でも風邪をひいたときってメンタルも弱くなるよな…。
ピンポーン。
その時、インターホンが鳴る音がした。
誰だ…、こんな時に…。
体を動かしたくなかった俺は、最初無視していた。
ピンポーン。ピンポーン。
何度もなり続けるインターホン。
なかなか帰らなかったので、俺は玄関へ向かった。
「…誰ですか、ちょっと今体調崩して…て…」
「…どうも…」
そこには日早片さんがいた。
「ひ、日早片さん!?どうしてここに…」
「…不本意。あなたが風邪で休んだっていうことを英田会長に伝えたら、資料を渡すついでにお見舞いして来いって…」
「ああ、そういうことか…」
日早片さんはコクリと頷いた。
「ってか、学校は!?」
「何言ってるの。もう放課後」
「え、もうそんな時間なのか」
どうやら俺は気づかず寝ていたらしい。
「とりあえず、これ」
日早片さんはそう言うと資料とゼリーや飲み物が入った袋をよこした。
「わざわざありがとう…。ちょうどお腹空いててさ」
「ならよかった。それじゃあ私はこれで」
「うん。ありがとうね」
俺はお礼を言って扉を閉めた。
まさか日早片さんが来てくれるなんて思わなかった。
英田会長に言われても、断るかと思っていたのにな…。
このゼリー、俺結構好きなやつだ。
あれ、なんかおかしいな。さっきまでは結構普通にしていれたのに。
なんかまた体が…。
そう思った時、視界が真っ暗になった。
「はっ!」
目を覚ました俺は、さっきのことを思い出していた。
日早片さんがお見舞いに来てくれて、いろいろもらってから部屋に戻ろうとして…。
そうだ。そこで意識がなくなったんだ。
「じゃあなんで俺は今布団の中にいるんだ?無意識のうちに戻ったのか?俺すげえ…。って、うお!?」
そこには机に突っ伏して寝息を立てている日早片さんがいた。
「なんで、日早片さんが…」
そう思っていると、日早片さんが目を覚ました。
「うぅん…。あなた、起きたの…」
「う、うん。日早片さん、何でここに?」
「あなたが倒れたんでしょ…。そのままにしておくのも気が引けたから一応運んだの」
どうやら日早片さんが俺を部屋まで運んでくれたようだ。
「わざわざ戻ってきてくれたんだ。ありがとう。でも、どうしてまだここに?」
「運んで疲れて、ちょっとだけ休憩しようと思ったら寝ちゃったの。もう帰る」
そう言って日早片さんは立ち上がって出ていこうとした。
そういえば、机の上に置いていた生徒会の資料がない。まだ製作途中なのに…。
「日早片さん!ここにあった資料は…」
「あれがないと、私も会長も困る。でもあなたは風邪をひいている」
「え?…もしかして、やってくれたの…?」
「さっきも言った。これがないと困る。それに風邪をひいているあなたにやらせてもっと治りが遅くなったらいけない」
そう言って日早片さんは部屋を出ていった。
「日早片さん、代わりにやってくれたのか…」
その時、俺のおでこに冷えピタが貼ってあるのに気づいた。
「まさかこれも…」
俺は急いで玄関に向かった。
「日早片さん!」
「なに?早く布団に戻って寝なよ。またぶり返す」
「資料、代わりに作ってくれてありがとう。それに冷えピタも…」
「…」
日早片さんは黙ったままだった。
「俺、生徒会に入ったのに全然仕事もできなくて風邪もひいて迷惑ばっかり…。こんなんなら、俺じゃない人の方が…」
「…別に、今回の資料は結構量が多いから仕方ない。あなたは生徒会に入ったばかりだし、慣れてないのも仕方ない。風邪も、仕方ない…」
そう言って日早片さんはこちらを振り返った。
「それに、あなた以外の人が生徒会に来てもきっと大差ない。むしろあなたの方がいろんな経験してきてるし、役に立つ」
そして日早片さんはそのまま続けた。
「あと…。私と会長争い、するんでしょ?」
「…!ああ、する。日早片さんと、そして俺が勝つ!」
「勝つのは私」
「そのために、早く風邪を治して生徒会に復帰する!」
「うん、そうしてくれないとこっちも困る」
「日早片さん、ありがとう」
日早片さんは玄関の扉を開け、出ていこうとした。
その時、思い出したようにこちらを向いた。
「これで、貸し二つ…」
「え…」
「最皇祭の時と合わせて」
「ちょ…!」
俺が答える前に日早片さんは出て行ってしまった。
「はぁ…。貸し二つって、何で返せばいいんだ?」
出ていくときに見せた日早片さんの小悪魔のような笑顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。
会長から資料を渡すついでに見舞いに行くように頼まれた。
何で私が…。
そう思いながら、教えてもらった月くんの家に向かった。
彼の家に着いてインターホンを鳴らす。
全然出てこない。
「なんで…」
ここまで私を連れてこさせたのだから意地でも出そうと思い、何度もインターホンを鳴ら
した。
しばらくすると扉が開いた。
「…どうも…」
月くんはとても驚いていた。
事情を説明して、渡すものも渡した。これで仕事完了。
「それじゃあ…」
私は帰ろうとした。
その時、家の方で大きな音がした。
どうしたのだろう。少し気になって戻ってみる。
玄関は鍵が…かかってない。
ゆっくりと扉をあけた。
「!?ちょっと…」
そこには倒れている月くんの姿があった。
もしかして無理やり出てこさせたのがいけなかったのだろうか。
とにかくこのままではいけないと思い、私は彼を必死に部屋まで運んだ。
「…大丈夫かな…」
運んでいる間、月くんに触れてしまったが、とても熱かった。
布団に寝かせてから買ってきた冷えピタをおでこに貼る。
私が出てこさせたせいだったらどうしよう…。
そう思うと、落ち着かなかった。
その時、机の上に生徒会で使う資料を見つけた。
月くんに頼んでいた資料で、今度使用するものだ。
見てみると、半分以上出来上がっていた。
「結構仕事たくさんあったのに、これもこんなに進んでる…」
何かしていた方が落ち着くと思っていた私は、資料の続きを作成することにした。
見直してみてもほぼ完ぺきだ。
まだ生徒会に入ったばかりなのに…。
資料を完成させ、することが無くなった私は、気づいたら眠ってしまっていた。
月くんの声で目が覚める。見た感じ大丈夫そうだ。
私は一言告げて、帰ろうと玄関に向かった。
「日早片さん!」
月くんに呼び止められる。
「俺、生徒会に入ったのに全然仕事もできなくて…」
そんなことはない。そう思った時、自然と口が開いていた。
それでも気の利いた言葉が出てこない。
こういうのは苦手だ。
月くんは自分を低く評価しすぎている気がする。
議事録も私の方ができているといったけど、あれは実は嘘だ。
私が見せたのは、生徒会に入って何度目かの委員会会議の記事録。
初めて作成したものは、月くんと同じような出来だった。
あるいはもう少しひどかったかも…。
初めてであれだけできていれば十分だと思う。
言わないけれど…。
そして私は月くんの家を出た。
早く復帰してくれないと結構困るので、さっさと風邪を治してください。
そう心の中で思いながら、自分の家に向かった。
後書き
四十七話です。最後まで読んでいただきありがとうございます。
今回は月が風邪をひくという話でした。まあ、これもあるあるといえばそうなんですが…。
日早片さん、なんだかんだいって優しいんですね。
そして月の好みは知らないのにたまたま好きなものを買っていく。これは日早片さんが好きなものでもあるんです。
息ぴったりですね。こんなこと言ったら怒られそうですが。
あと何話か書いたら冬休み、そして三学期に入ります。それが終われば二年生に、そして…という感じです。
続きもぜひ読んでいただけたら嬉しいです。感想も大大大大歓迎です。
よろしくお願いします。