突然日本画教室日誌 三日目
ついに、色を塗れる日です!
ついに、岩絵具に触れる日なのです!
昨日頑張って引いた線の上から白い絵具をかけるという、少々不吉なことを言われた気がしますが、「白い絵具」を使えるのです!
これはついに、白くてきらっきらの岩絵具とご対面できる!
と最初は思っていました。
膠液をつくる
日本画で使用される絵具はチューブに入っていて水や油に溶かしてすぐに使えるようにはなっていません。
粉状になっていて、接着剤に混ぜ合わせて紙に貼り付けます。その接着剤が膠(にかわ)と言います。
ウシやウサギの骨や皮から取り出したデンプンです。
ゼリーやムース、マシュマロなんかの材料になるあのデンプンと同じようなものです。
そのため使い方も料理と同じで、ふやかしてお湯に溶かして使います。
保存時は冷蔵庫です。
絵を描いていたはずなのに、やっていることは料理で、器具は実験用具。
なんでビーカーなのか聞いたら、膠を溶かす用の鍋もありました。
本来はこの入れ物で、粉状もしくは棒状やら板状の膠をふやかして、お湯に溶かすのですが、中に熱が伝わるのが遅く時間もかかり大変なので、ビーカーに入れて湯煎をするという手順にしたとのことでした。
それより、どうしてしれっとビーカーが出てきたのか気になりましたが、通常一家に一つあるものだったのでしょうか。
胡粉と戦う
料理のような実験のような工程を終えて膠液を手に入れた私に母が次の指示を出します。
「この胡粉という粉を乳鉢で片栗粉くらい細かくなるまですりつぶして」
「そうしたら膠液を加えてこねてまとめて丸くして」
「胡粉の固まりを丸くしたら100回たたきつけて」
「胡粉の固まりを皿の上で水に溶かして」
綺麗に細かくしたものをまとめて、一生懸命一個にまとめたものを溶かすって……え、徒労を感じる(第二回)
胡粉というのは牡蠣や蛤などの貝殻から作られた粉です。
これは後から絵に乗せる絵具が乗せやすくなるように最初に面にかける絵具です。
これもこのままでは紙に貼り付けられないので、すべての粒にまんべんなく接着剤、すなわち膠をつけてあげないといけません。
フレーク状になっているのを細かくすりつぶしてから、膠を加えるのです。
水に溶かして薄めるのはむらなく塗るためですね。
100回たたきつけるのは、そうは言っても少々無駄に感じる作業のストレスをぶつけるためです。嘘です。
前日に酸欠を起こしながら一生懸命書いた骨書きの上からこの白い絵具を「わたし、何しているんだろう」という気持ちでかけます。
かけた直後はほぼ透明で、本当に何をしたかわからないし、どこを塗ったかわからない状態でした。
乾かさないと先に行けないし、わたしの休暇も終わるので、ドライヤーをかけて乾かしました。
すると、うっすら白っぽくなりました。骨書きが消えなくてよかったです。
ところで、これ、岩絵具じゃないですね!?貝殻ですしね?
きらきらもしないし、色も白しかないし、ちょっと騙された気持ちでした。
水干でもいいじゃない
さて、この日のうちに下塗りまでやってしまおうということになりました。
わたしは絵画に疎いのでよくわかりませんが、緑の木をいきなり緑に塗ったりしないそうです。
美術館とかの解説で「これは下塗りに紫が使われているんですねー」と言われても「へー」としか反応できないタイプの人間です。
下に何か色が塗られていたら、その上に乗る色も変わるし、何となくまとまりが出ると言うのはわかります。それを自分の絵に応用できるかと言われれば否です。塗る前の絵にどうして「この絵は〇色を塗るといいねー」とかわかるのか意味不明です。
しかし下塗りをしないという選択はさせてもらえなそうだったので、なるべく邪魔しない色にすることにしました。
それがこちら黄土と美青です。
ところで、胡粉は貝殻の粉で岩絵具ではありませんでした。
少しがっかりしていたところに、母が色とりどりの粉の入った瓶を並べたので、ついに!岩絵具に触れる!と思っていたのですが、ラベルには
日本画用水干絵具
の文字。
「ついに岩絵具?」
「んーん水干絵具」
「なにそれ」
「泥とか粘土の絵具」
粒子の大きさが違いすぎました。
塗ってみても、乾いてみても、きらきらしません。
こちらも瓶に入っている時には粉が固まりになってしまっているので、砕いてから膠に混ぜます。今回は練り固める必要がないらしく、ちょっと多めの膠液に溶かして、水で薄めて、薄く面に塗っていきました。
それにしても、白い皿一つ一つに絵具が溶かされて並んでいる図は、日本画っぽくて楽しくなってきます。
時代劇の浪人の内職風景のようです。
浪人の内職は傘貼りかもしれませんが、傘貼りも作業だし、絵を描くのも作業みたいになってきているので、どっちもやっていたかもしれないです。
何はともあれ、ついでに花と葉の部分も胡粉と水干絵具で塗っておくとよさそうとアドバイスされたので、従っておきました。
水干絵具にも、かなりたくさんの色があります。
「これでも色塗れそうだよね」
「できなくないよ。やってみる?」
ご冗談を!わたしは岩絵具に触れるためにやっているのです。
しかし、水干絵具の方が扱いが楽なのです。
それは次の日、岩絵具に触れて実感することになります。
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