見出し画像

突然日本画教室日誌 四日目

こんどこそ本当に岩絵具に触れることになりました。
せっかくなので、改めて岩絵具の説明からです。

岩から作る岩絵具

画像1

今回使わせてもらったのは、新岩絵具というものでした。
天然の鉱石を粉砕したり精製したりして作ったものが天然岩絵具というらしいのですが、高価であったり扱いが難しかったりと、初心者には向きません。
ということで、人工的に作った金属酸化物の塊なんかを、砕いて精製して作られているのが新岩絵具というもののようです。

母に何度か派遣された岩絵具屋さんには、岩絵具に加工される前の鉱石がありまして、それから作られた天然岩絵具も並べられていました。
天然でそこまで鮮やかな色が出るとは驚きですし、袋にちょっと入れただけのお値段も驚きでした。

絵具って消耗品ですよね……?

一袋の量大分少ないですけど、それで英世先生が何人か出動しないといけないのは、消耗品としておかしくないですかね……?


さて、使うための絵具の入った袋や瓶を並べて表記をよーく見てみますとこんな文字が……

画像2

有毒なので気を付けてくださいねということです。
人工的に作った絵具だから有毒と言うことではありません。
コバルト化合物のうち毒のある物質は自然でできたものでも、人工的に作っても有毒でございます。
有毒っぽい岩絵具たちは、手に触れたらどうこうなるようなものではありませんが、うっかり口に入れたり、子どもの手の届くところにおいてはいけません。

すべての絵具が有毒ではなく、色によって異なります。
色によって分子が異なるので当たり前といえば当たり前ですが……。

少々脱線しますが、実はわたしは趣味の一環で毒物劇物取扱責任者という資格を持っております。
試験をパスしたのが5年くらい前なので、詳細は覚えておりませんが、なんという物質を毒物として、なんという物質を劇物として、どのように扱って、どのように保管しなければいけないかが法律で決まっています。
売る場合はもちろん保管するときにもそういう知識を持った管理者を置く必要があったような気がしているのですが……。
個人宅に大量に保管されている絵具の中に、法律で扱い方が決まっている物質を含むものってないのかしらとか考えてしまいました。
試験勉強をしたときに、よく聞く絵具の顔料が毒物だか劇物だかに指定されているのを見たような気がするんですよね……気のせいかな。

ひとまず、使用したすべての絵具を素手で触りましたが、今とても元気です。
絵具がついたままの手で粘膜を触ってしまうという愚行は、熱中しだしたら必ずやると思ったので、触れたら都度洗うようにしておりました。しかし、想像以上に面倒で、途中から水道水ではなくバケツに手洗い用の水を置き始めました。
岩絵具自体はどれも水に溶けるような物質ではないようだったので、絵具の粒子さえ落としてしまえばよかろうと、あまり気にせず使ってしまいました。
溶けてしまうものは、岩絵具として使えないはずですから、まあ大丈夫でしょう。


絵具の粒度

同じ写真の使いまわしで申し訳ないのですが、岩絵具にはこのように数字がついています。

画像3

「鶸色」の下にある「13」という数字ですが、これが絵具の粒度を表していて、「番手」といいます。番手が大きくなれば大きくなるほど、粒子が細かくなります。
今回は7~13、そして白(びゃく)という粗さの絵具を使いました。
白は13よりもさらに細かい絵具です。

しかし、どんなに細かくても水干絵具よりは岩の粒子です。
つまり、泥よりは荒いのです。
それがどういうことかと言いますと……

小学校の頃、泥や砂を水に混ぜて沈殿させる実験というのをやったことがあるでしょうか。粒が大きくて重い粒子はすぐに水の底に沈んでしまい、軽い粒子や泥やいつまでも水中を漂っています。それらの細かい粒子も時間を置けば沈殿します。

岩絵具はまさにそんな感じです。

まず、膠と水に混ぜて使いますが、番手が小さくなればなるほど、つまり、絵具の粒子が大きくなればなるほど、よく沈みます

さらに、番手の大きさで粒子の大きさがことなるので、番手の異なる絵具は混ぜようとすると分離します

番手の大きいものを使えば使うほど、水彩絵具がどれほど使いやすいものだったのか実感できました。


ついに絵具に触れる

前日に水干絵具で下塗りをしたところに、細かい番手の岩絵具か乗せていくことになりました。

まじめに絵を描いたことがなく、葉っぱを緑に塗りたいときは、白い画用紙に真っ先に緑を乗せる人生を歩んできましたので、すでに何色を置くべきかわからなくなっていました。
ここまでで何となく、薄くて細かいものから順に乗せていって、濃くて主張の激しそうな色は後から乗せるのだろうと空気を読み、鳥は緑がかった黄色で塗ってしまうことにしました。

「この鶸色使いたい」
「いいんじゃない?とりあえずそれで鳥の部分は全部塗っちゃう?」
「いや、尻尾のところはもう青を入れちゃいたい」

実は、画材にインコを使ったのには理由があります。

群青の7番を使いたい!

これです。
わたしの可愛いインコ(9歳・雄)は尻尾の付け根と尻尾の先だけ鮮やかな青なのですが、ここにその群青の7番を使えると確信していたのです。

そのため、群青の7番をもっとも美しい色で乗せるべく、その下に入れる色をこだわろうとしました。
絵の統一感なんて知ったこっちゃない発言です。

しかし、画材に彼を選んだことを間もなく後悔することになるのです……

「体の色は鶸色で、頭はこの黄色にちょっと橙を混ぜて、尻尾は群青、くちばしと足には桜色を入れてしまおう」
「うん。やってみたら?」
「で、これ、先に全部絵具作るべき?」

岩絵具はそのまま使えません。
絵具を絵具として使うための準備が必要です。

使用する岩絵具の粉を皿に出し、膠で練りながら混ぜます。そこに、粒子の大きさに合わせた分量の水を入れて混ぜて使います。

水の量は、白なら膠+岩絵具の3~5倍、10番台なら2~4倍、1桁番台は1~3倍程度で使いました。番手が大きくなるほど水が減り、濡れた色付きの砂っぽくなっていきます。

これを最初に絵具って言った人、すごい……。

一色塗るごとにこの作業をするのも面倒なので、使うつもりの色は一通り作ってしまうことにしました。

しかし、作って時間を置いた絵具はもちろん沈殿します。
しっかり絵具の状態と、筆に粒子がどのくらいついたかを確認しながら塗らなければ、絵に水だけ塗ってしまったり、砂の塊を乗せてしまったりするのです。

本当に「塗る」というより「乗せる」という作業でした。

たっぷり砂を筆につけて画面をなぞれば、一度にしっかり色が付きますが、ムラだらけになります。薄く塗って乾かすという工程を何度も行う方が綺麗に乗るのですが、うっかり乾く前にこすってしまい、下の色まではがしてしまうこともあります。

「ねえ、わたしこの作業知ってる」
「?」
「壁のペンキ塗りと一緒だ」

昔、劇の大道具づくりで、ペンキを扱ったことを思い出していました。
ムラなく塗るということができたこともないという事実も思い出していました。

そんな中一生懸命塗り続けた結果がヘッダ画像となります。
一番頑張って塗ったのは花です。
(だって色がすくなかったから……)
5回くらい重ねてやっとこの発色でした。

色を塗りだしたのに終わりが見えないなんてことあるんだなと思いました。
図工の時間は色塗りに入ったらもう終わったも一緒だったのにな……。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?