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書評。「みんなちがって、みんなダメ」(中田考著)

ちょっと古い本ですが、好きなので紹介。


意識低い系自己啓発書

自己啓発書。あなたは読んでいますか?

私はそんなに読みません。自己啓発ならマックス・ウェーバーの著作で間に合っています。マックス・ウェーバーは学術的にも拘らず、自己啓発書のように元気づけられます。

大体意識高いこと言うか、宗教み抜いた宗教の本のどちらかになっている自己啓発書ですが、この本はとても意識が低いです。

ですが、この本にはこの本の骨子になる考えは「まえがき」からわかるようにしっかりしています。

要約すると、「人間は自分が知りたいことを何も知らない。知らないからといってダメではない。ダメなのは知るべきことを知らないからだ。人が知るべきことは「自分が何をしたいのか」「自分には何ができるのか」でしかない。本書の目的はそれに気づく手がかりを与えることだ。」

私の要約なので、全文知りたい方は購入ください。

逆張りに見えるがそもそもが逆張りだった

著者は私から見ると結構逆張りする人に見えます。Youtubeで活動してますので見てみてください。(保守イスラム芸な気もします)

ですが、そもそも自己啓発書自体逆張り芸でやっているのではないかと言えるほどの語り口です。

意識低い系と言いましたが、意識高い系は人間が生きるうえで必要なことを過大に見積もらせ、苦しみをただただ生み出しているのだなとわかります。

この本は生きるということに必要な物を示すことで、生きることに対して逆張りする自己啓発書のアンチテーゼの一つと言えます。

第一章は現代の病に対する薬

この章のタイトルは「あなたが不幸なのはバカだから」です。

なんとも煽るタイトルですが、この章の前半はまさに現代を蝕む病。承認欲求について触れています。

詳しくは本を買って読んでほしいのですが、書名や章タイトルに反して、著者は承認欲求の病に対して、まずは生きているだけで承認されていると接します。著者は基本的に優しいと思いますね。

そのあと、承認欲求の病で問題になるTwitter(現X)に触れ、学校、テロ、と触れていますが、私が好きなのは「神がいなければ「すべきこと」など存在しない」ということです。

この本はイスラームへの信仰を前提に書かれている(多分読者はムスリムでない前提)のですが、信仰がなければ究極的には善悪もないだろうということです。

(もっとも、私自身は無宗教だとか、無神論者だったとしても、信じるということから人は逃れ得ない以上、信仰がないということはありえないと思っています。著者も語り口からそうでしょうね)

最後に勤勉さに対して一刺ししてこの章は終わっています。

この本全体を通して

現代で美徳とされる価値観が、むしろ個人を苦しめているということを問題視しているように見えます。

「美徳の不幸」というように、美徳を守ったところでお腹は膨れないのですが、それを盲目的に遂行するのは確かに非合理です。

自己啓発書に求められるのは、美徳といったいった常識を打ち破り、本当に必要な気づきをもたらしてくれるものではないでしょうか。

現在美徳とされている価値観は、多くは本当に最近10年ほどで醸成されたものです。歴史がないからといって軽んじていいものではないのですが、それが自分たちを苦しめていると合理的に判断できるのならば、切って捨てていくことは幸せに必要なことでしょう。

最後に

ライターが書いているのか、本人が書いているのかはわかりませんが、とても読みやすい本です。

中田考さんは日本のイスラーム界隈ではとても有名で、参考になる本を多数書いています。コーランの翻訳も出していますね。

最後に難点ですが、ちょっとイスラムネタが多すぎるのでくどいと思うかもしれません。とはいえ、そういうものだと思えば気にならない程度です。あと、極論じみたものも多いです

とりあえず、私が読んだ数少ない自己啓発本の中では傑作だったのでお勧めします。

私が読んだ自己啓発みが強い本の中で一番の傑作はマックス・ウェーバーの「職業としての学問」であるとだけ最後に述べておきます。

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