わたしとキムくん #7
祇園祭から数日後。
わたしは仕事終わりにキムくんを駅でピックアップして、一緒に遠出をする。
海と山に挟まれて、温泉がたくさんある街へ。
わたしが大学生活を送った街だ。
学生時代の思い出がたくさんある、大好きな街。
ここもまた全国的に有名な観光地であり、高速で1時間ほどでいつでも行けるんだけど、近いと逆になかなか行かないという不思議な地元心理。
せっかく日本にきているのに、ずっとわたしの地元にいるのももったいないし、九州内ならどこでも連れていくよ〜と言ったら、この温泉の街をみてみたい、とキムくんが言ったのだった。
卒業後、街並みはだいぶ変わってるかもしれないけど、少しは案内できるだろうし、わたしも懐かしいし、ちょうどいいじゃん!ということで、2泊3日の旅行に出かけることに。
前回はコボちゃん事件で煮え切らない感じでバイバイしたんだけど、その後気持ちの整理もついた。もっとキムくんのことを知ってみよう。
仕事が終わって待ち合わせの駅へキムくんを迎えにいく。
遠くから歩いてくるキムくん。
やっぱりコボちゃんだったけど、なんだかコボちゃんも見慣れてきたぞ……
✳︎
車の中は、思ったよりも盛り上がった。キムくんも、この間より少しは緊張がとけたみたいで、会話がスムーズだ。
わたしも、車の運転席と助手席で並んでいると、コボちゃん頭が視界に入らないので、会話に集中することができる。
会話に集中すると、やはりキムくんとの会話は楽しいのだ。
運転中、わたしは携帯を触ることができないので、
まず、キムくんがパパゴで訳した言葉を音声で聞く。
そして、わたしが簡単な韓国語で答えるか、
英語で答えるか、
キムくんに携帯を持ってもらって、パパゴで音声入力をするか……
というやっぱり不思議な状況。でも、そんなやりとりもなんだかおもしろい。
そんな話をしながら車を走らせる。夕暮れが近づいてきて、藍色と朱色の空が交差する……
そんな話をしながら、目的のホテルに到着。チェックインを済ませる。(安心してください、シングルルームふたつです。)
ロビーで、ウェルカムドリンクのシャンパンをいただきました。
ホテルの目の前に焼肉屋さんがあったので、そこで食事をすることにした。
人気のお店らしく、店内は仕事帰りのサラリーマンや若者でいっぱいだった。15分ほど待って、お店の中に案内された。
キムくんは何も言わずにトングを手に取って、肉を焼いて、わたしのお皿によそってくれる。韓ドラみたいだ。
サービスで出てきたキャベツをそのまま生で食べるキムくん。
「それ、日本人は焼くんだよ」と告げると、「え!?焼くの!?」と不思議そうだった。
付け合わせに出てきたキムチも日本人向けの味だったらしく、「酸っぱいキムチが恋しい……」と終始言っていた。(ごめんね、甘いキムチばっかりで……という気持ちになった。笑)
ふたりでたらふく食べた後、浜辺を散歩することに。
この近くに海がある。
大学時代よく訪れていた場所だ。懐かしい。
わたしたちは、コンビニでアイスを買って、海へ向かった。
これは余談だけど、ご飯を食べたあとに、「ハーゲンダッツじゃんけん」をするのが私たちのお決まりになっていた。
ただ単に、じゃんけんに負けた方がハーゲンダッツを奢るというだけの話なんだけど、普段あまり自分では買わないハーゲンダッツを賭けてじゃんけんをするのは、なかなか楽しかった。
このハーゲンダッツジャンケンは、キムくんが滞在中、3勝0敗でわたしが勝った。ヌナはジャンケンが強いのだ!
浜辺に座ってアイスを頬張る。
夜景と波の音がなかなかロマンチック。
静かで落ち着く。
キムくんが突然話を切り出した。
よっぽど嫌な人じゃなければ、キムくんじゃなくても一緒に遊んだりしたかもしれない。
でも、旅行にまできたかはわからない。
こちらがNoと言えば、無理矢理何かをしてくるような人ではないという安心感がキムくんにはあったのだ。
……ドキッ……
…
…
…
気づいてたんだ……
ザザンッ……
一瞬、何と返答したらいいのかわからず、ただ波の音だけが優しく響いていた。
続く……
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